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プレスリリース

2007.11.21

MIAU 設立発表会講演録(2)

設立記者発表会講演 「ネットユーザーとデジタルコンテンツ、未来への課題」
Movements for Internet Active Users 発起人 小寺信良(AV機器評論家、コラムニスト)

私の講演では「ネットユーザーとデジタルコンテンツ

未来への課題」と題しまして、近年注目を集めている著作権関係の課題、それからネット社会と現実社会の関係について、述べさせていただきたいと思います。

先ほど津田からご説明させていただきましたが、われわれの当面のミッションとして、以下の3つに反対するということを掲げております。

  1. 違法サイトからのコンテンツダウンロード違法化
  2. コピーワンスおよびダビング10技術の採用
  3. 著作権の保護期間延長

この中で最も差し迫った問題であります1番目、われわれの最初のミッションともなるわけですが、「違法サイトからのコンテンツダウンロード違法化」に関してご説明申し上げます。

この法案は、そもそも違法サイトという前提があって、そこからダウンロードすることを違法化するということですので、一見何の問題もないように思えるわけですが、実際には、「情を知って」といった文面の解釈の問題、あるいは罰則がないなどの点から、現状と変わらないのではないかという意見も一部にはあります。しかし、何を持ってして「情を知って」ということが言えるのか、あるいは言えないのかということに関しましては、それを消費者の個人個人が判断していくことは非常に難しいわけです。

例えば、今後何らかのキーワードを入力して、それで動画を検索して自動でダウンロードするといったようなツールが登場した場合を考えてみます。この場合は、そのツールがどこから何をダウンロードするのかといった、自動的な動作をユーザー自体が制御することはできないわけです。つまり、ユーザーが入力したキーワードに違法性を問うということになりかねないので、それは通信の機密性を著しく損なうことになるわけです。

また、現在は音楽と映像だけが問題になっていますが、当然、デジタル化されたコンテンツはそれだけではないわけです。例えば、テキスト、書籍のようなものはどうか、あるいは写真はどうかといった具合に、この制限は確実に波及していきます。そして、一度課せられた制限は、たとえその問題が解決したとしても、撤廃されることはないわけです。

これは、将来登場するであろう情報コンテンツサービスに対しても大きな足かせになるであろうと考えられます。現在でも、ほかの先進諸国でスタートしている合法的なサービスが、日本でのみ始まらない、といった事例も出てきています。

この制限法では、このような国際的サービス格差を助長するもので、日本がよりサービス後進国へ陥ってしまう要因ともなるわけです。このようなあり方は、そもそもコンテンツ立国をするのだという具合に政策を転換した日本の政治の方向性と、全く相いれないものです。

ここまでは非常にまっとうな、ある意味、正論の反対意見を述べたわけですが、ここで私見を述べさせていただければと思います。

補償金問題、そもそもということを考えてみますと、まず05年に設置された「文化審議会 著作権分科会法制問題小委員会」というものがありまして、そこにiPodをはじめとする、固定メディア型の音楽プレイヤー、ハードディスクビデオレコーダー、パソコンのハードディスクといったものにも、録画補償金・録音補償金を対象とすべきという意見が提出されたわけです。

そこで、その是非がこの委員会で議論された結果、結論はどうなったかというと、補償金制度の廃止を含めて議論をすべき、という結論が出たのです。その補償金問題を専門に議論する委員会として、06年に「著作権分科会私的録音録画小委員会」が招集されたわけです。そもそもこの小委員会の目的は、補償金の徴収方法や対象機器の範囲などを考えることでした。しかし、この小委員会が1年数カ月の間、議論して出した結果が、ダウンロードの違法化、すなわち著作権法30条の改正です。

では、肝心の補償金の範囲や、廃止するのをどうしようかというような話は、実は来年度に先送りなのです。つまり、観察的にこの状況を見れば、インプットされた命題に対して、出てきたアウトプットが全然かみ合っていないわけです。

これは、ものすごく単純な例に置き換えてみるとよくわかります。普通は、ある程度のアウトプット範囲を予測してシステム設計をします。これは、機械的なシステムでも人的なシステムでも同じことだと思いますが、音を大きくしようという回路を作ったとします。そこに対して音を入力します。そして出てきた結果が、蛇口からほかほかご飯がにゅるにゅる出てくるような、機械装置ができたとします。それはどう考えても、設計を間違えたと思いますよね。これと全く同じことだと思うのです。

アウトプットを誘導された方が世の中にいらっしゃるわけです。そうすると、会議の経緯を読めとおっしゃると思うのです。しかし、現時点で、会議の議事録は、平成19年第11回目以降はまだ公開されていません。この回は全部で13回ありますので、11回、12回、13回と非常に大事な、この結論に至った回の議事録が公開されていない状況です。ですから、なぜこのようなウルトラCみたいな着地点に至ったのかという経緯が、委員会の外の人間には全く把握できていないというわけです。

したがって、これは全くの私見ですが、そもそもこの委員会自体の回路設計(人選)が間違っていると。ですから、アウトプットした結論は無効なのではないかと、個人的には考えるわけです。

最後に、この会の基本的な立ち位置について、若干のご説明をさせていただければと思います。

われわれは、権利者、メーカー、放送事業者などと敵対するための組織ではありません。これらの方々が潜在的にお持ちの、加速していくITテクノロジーへの恐怖感や不信感といったものを取り除きまして、消費者とデジタルコンテンツの供給者との間にWin-Winの関係をもたらすべく活動していく、ということを基本にしています。

もし仮に何か戦う相手があるとするならば、それは、「悪法も法」というような思想です。現在のコンテンツ市場が陥りつつある「ルールは決めた者勝ち」というあり方に対して、異を唱えるものであります。

また、われわれ自身はインターネットユーザーを代表するというものでもありません。われわれは、これまでマスメディアが積極的に取り上げることができなかった、インターネットの底に沈んでいるインターネットユーザーの意見を吸い上げて、実社会に向けてアウトプットしていくという組織です。

これまで、なぜネットユーザーの意見が実社会に反映されていかなかったかと言えば、それは大多数のユーザーが、「アノニマス」と言いますが、すなわち特定のアイデンティティーを持たない状況で活動しているからです。つまり、どこの誰ともわからない、どういう立場でしゃべっているのかもわからない、ましてや実数も正確には把握できない、というような日本特有のネット社会があるのですが、その総意をはかることが、ネットの外側にいる人間には非常に難しいわけです。

では、例えば、隣国の韓国のように、すべてのネット利用が国民番号のようなものを入力して、確実にアイデンティティーがなければネットで活動できないというような社会のほうがいいかというと、それはそれで、またいいことばかりでももちろんないわけです。

国民性の違いもありますし、現在、匿名でいたいという人たちの意向も、もちろん尊重しなければならないわけです。しかし、現在の日本の社会は、実体のある、名前のある形あるいは組織でなければ、実社会に対して影響を与えることができないという構造になっています。

そこでわれわれは、ITの技術を使いつつ、ネット社会の中に存在する消費者の総意をまとめ、そして、ネット社会と実社会をつなぐための活動を行ってまいりたいと思っております。

本稿については、Tatsuki Sugiuraさんにご尽力いただきました。誠にありがとうございます。

このテキストはMIAUの映像からの派生物です。よって映像のライセンスに準じて、Creative Commons3.0 by-nc ライセンスが適用されます。

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