MIAUは内閣官房「モバイル・エコシステムに関する競争評価 中間報告」に関する意見募集に意見を提出しました。
内容は以下の通りです。
「モバイル・エコシステムに関する競争評価 中間報告」への意見
<中間報告の該当箇所:40ページ>
この節で語られているデジタルプラットフォームに関する懸念に対する認識は共有する。その上でモバイルエコシステムの特性を考える上では、そのプラットフォームで収集され、利用されるデータレイヤーを追加して検討を行うことが重要だ。モバイルプラットフォームはそのクラウドサービスと密接に連携していることも特徴で、端末内外に保存されたデータやパラメータにも目線を向けるべきである。またこれらのデータはプライバシーや表現の自由などの人権に大きく関わってくるものであることに注意すべきだ。これらは競争法的なアプローチだけでは手当てしづらく、すでにある競争法以外の既存の枠組みと併せて新しいアプローチが必要だろう。
本報告書はこれまでの政府の報告書にはない、技術的側面からの検討と踏み込んだ提言がなされており、それ自体は評価されるべきことだが、モバイルエコシステムに関する検討を加える上では消費者保護の観点が重要だ。評価を行う上では本パブリックコメントの結果を踏まえて、さらに技術コミュニティやインターネットガバナンスコミュニティが行うようなマルチステークホルダープロセスを用いて議論を進めるべきだと考える。
「競争に悪影響を及ぼす危険性の高い行為を類型化し、原則的に事前に禁止していくこと、また、セキュリティやプライバシーといった事由についてそれが正当なものと認められる場合には、例外的に禁止から外していくという考え方」についても同様だ。デジタルプラットフォームは私企業であり、経済活動の自由は尊重されるべきことは原則だが、本報告書内で述べられている現状の市場環境における問題意識は共有する。その上ではセキュリティやプライバシー、消費者保護の観点から危険性の高い行為を類型化して、原則的に禁止する必要があることが必要なシチュエーションも存在する。
その上で正当なものと認められるものについて例外的に禁止から外していくことにも異論はないが、正当であることをどう評価するかを決定する会議体のありかたについても議論が必要だ。テクノロジーにおける可能性は日進月歩であり、その正当性の決定に時間がかかってしまって取り残されるようなことがあれば、現状をまた繰り返すことになる。短いスパンでの定期的な改訂を前提とした、消費者や技術コミュニティも含めたマルチステークホルダープロセスによる継続的な検討を行うべきだ。
<中間報告の該当箇所:72ページ>
この節ではOSアップデートに伴うアプリ開発者が不当に受ける負担コストについてまとめられている。消費者の立場では、反競争的な現在の慣行を是認することは望ましくないが、同時にプラットフォーム事業者から提供されるアップデートはタイムリーに利用できることも無視できない利益である。アプリ開発者との間でイコール・フッティングを実現することは重要だが、イコール・フッティングを実現するために最終的に利用可能なアップデートの正式版リリースが妨げられるような施策にはならないことが望ましい。
この節で提示される「対応パッケージ」に「運営状況の政府への報告と、政府によるモニタリング・レビューの実施」が挙げられているが、これは政府とプラットフォーム企業だけに閉じた仕組みにすべきではないと考える。OS等の新バージョン公開に伴うアップデート対応期間については、消費者としてはアプリ開発者が不必要・過剰なプラットフォームの要求に対応しなければならなくなると、本来享受できたはずの新機能のリリース等が相対的に遅くなって不利益を被る。そのため、主に開発者が被害を受ける問題であっても、消費者からの報告も受け付ける窓口を政府側で用意してもらいたい。
<中間報告の該当箇所:85ページ>
ケンブリッジ・アナリティカ事件のようなことが我が国で生じないようにする必要がある。ユーザーやデータをトラッキングする際に、明示的にユーザーの許諾を必要とすることは利用目的の明示という観点から必要であり、これらの許諾をユーザーが出す前にリスクを含めてわかりやすく表示することは重要である。この点においてはモバイルプラットフォームがその競争の中でパーミッションをリスクを含めてユーザーに明確に示すようになったことは評価されるべきだろう。またそのリスクについては、そのパーミッションを許可したことで技術的に生じうることが共通にわかりやすく説明されるべきだ。
ただし本報告書で指摘されているように、ファーストパーティとサードパーティの間に差があり、プラットフォームが優遇されている状況は無視できない。消費者の観点からはファーストパーティであってもサードパーティであっても、トラッキングされていることに変わりはない。ファーストパーティにもサードパーティと同様の表示を求めるべきだ。
<中間報告の該当箇所:114ページ>
報告書で示されているアプリストアをめぐる問題意識は共有する。その上でアプリストアによる制限が権力による規制を受け、市民の自由を脅かす事案が生じていることも無視できない。中国などではVPNを利用するためのアプリや、市民の権利運動に利用されているアプリが配信停止されてしまった事例がある。原則的にユーザーにはその端末で動作させるプログラムに関して自由があり、アプリストアによる審査を経なければプログラムを動作させることができない状況はその自由を侵害している。ユーザー自身がソースコードからビルドして動作させることは可能であるが、それは誰でもができることではない。競争法的なアプローチだけでなく、消費者の権利の問題としても本問題は長期的に検討されるべきである。
その上で本報告書は「はじめに」の章において、「現時点における評価」を行い、「現時点においての望ましい姿の仮説」を提示した、という前提が設けられている。本報告書が提示されたあと、アップルはiOSにDeveloper Modeを導入することを発表した。Developer Modeがどのようなものであるかまだ詳細は不明だが、開発者、テスター、レビューワーなど専門知識を有した利用者が明確に許諾をしたことを確認した上でアプリをサイドロードで動作させることができるものと仮定すれば、これは評価されるべきものだと考える。
しかしすべてのユーザーに対して開発者向けの機能を有効とすることは、ユーザー保護の観点から推奨できるものではなく、現状ではサイドロードを前提としたOSの設計になっていないのであれば、短期的にユーザーのセキュリティを低下させることは間違いない。またフィッシングサイトと同様に、例えば金融機関や公共機関、ECモールなどを詐称したアプリをインストールしてしまうことで詐欺などに利用されてしまう懸念も存在する。そのような状況下で、モデレーションなしでアプリをインストールできるようにすることは、短期的な視点からは一足飛びな議論とも言える。
アプリストアによる審査があることでセキュリティやプライバシーが一定程度担保されている側面は否定できないだろう。また一定のモデレーションがあることに安心を感じるユーザーも存在する。特にアプリストア内では決済が行われるため、消費者は安全性が確保できないプラットフォームでは決済を行わないだろう。
その上で、「現時点においての望ましい姿」の案としては、アプリストアの新規参入を許可する方向で自由度を高め、競争を促進するような議論も行うべきではないか。その上で、プライバシーやセキュリティは強くするほうにインセンティブが必ず働くわけではないため、一定の安全性を担保し、これまでアプリストアが行ってきたユーザー保護のガイドライン(例えば未成年者の高額課金を防ぎ、場合によっては返金を行うことなど)に従うことを前提として制度的に構築した上で、対応可能事業者に等しく開放することを義務づけるのはどうか。
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