掲載が遅くなりましたが、MIAUでは、社団法人テレコムサービス協会による「インターネット上の違法な情報への対応に関するガイドライン(案)等」に係る意見募集を受けて、以下の内容で意見を提出いたしました。ご参考下さい。
意見1. 第一条14号について
現行では「人の殺害現場の画像等の残虐な情報を不特定多数の者に対して送信する行為」となっているところ、改訂案では「人の殺害現場の画像等の残虐な情報、動物を虐待する画像等の情報、その他社会通念上他者に著しく嫌悪感を抱かせる情報を掲載し、または不特定多数の者に対して送信する行為」と対象が拡大されています。
現行では、対象となる行為が「不特定多数の者に対して送信」であることから、おもに、対象となる情報が望まない人の目にまで触れることを期待した行為を問題にしてきたのだと思いますが、今回の改訂では「掲載」行為一般が禁止事項として明記されることになります。これには、限定されたメンバーに対する掲載や、情報内容についての事前警告を見たもののみに対する掲載なども対象になっていると思われます。
対象となる情報の拡大も含め、社会的に問題となった具体的な事例をカバーするための改訂であることは理解できます。しかしながら、表現の自由を保証しているわが国においては、形式的には「人の殺害現場の画像等の残虐な情報」「動物を虐待する画像等の情報」「その他社会通念上他者に著しく嫌悪感を抱かせる情報」といった情報を、芸術や報道の領域で用いることは、多くはないとはいえあります。今回の14号の改訂については、そのような表現についての萎縮効果を招くおそれがあり、当団体としては懸念を表明せざるをえません。
40年前になりますが、1967年にベトナムからベトナム戦争の被害状況の写真を含む書籍の輸入について、残虐だとして東京税関が関税定率法の「風俗を害する物品」として輸入を許可しなかったことがあります。本件は政治問題化し、大蔵省が基準を改めることで通関を最終的に許可したという経緯があります(詳細は第55回国会参議院予算委員会第二分科会 第3号 昭和四十二年五月二十四日、および56回国会参議院大蔵委員会 第1号 昭和四十二年十月十三日などを参照)。今回の改訂が主要プロバイダに採用された場合、通報との組み合わせで実質的に同様の効果をもたらすような問題がおこる可能性が排除できないと考えます。契約約款モデル条項は、民間自主規制のひとつであって政府によるものではありませんし、また、モデル条項に過ぎず直ちに主要プロバイダが採用するというものではなく、個々のプロバイダには契約の自由があることは理解しています。しかし、通信業界団体としてのモデル条項には規範的な意味が含まれていますので、改訂案がインターネットユーザーの表現の自由やアクセスの自由の実質的な制限につながることを懸念します。現在のインターネット上では報道機関による商業的な報道があり、これとは別に、あるいは補完しあう形で、多くの個人ユーザーによる市民ジャーナリズム的な情報発信が行われており、今回の改訂はその両方に悪影響があります。
ついては、40年前にならって、14号の改訂案の内容を修正することを提案します。40年前は、通達で「残虐行為をあおりそそのかすものであること」という条件を加えることで、表現の自由に配慮することになりました。これにならい、「残虐行為をあおりそそのかすものであること」や「嫌悪感を抱かせることをもっぱらの目的とすること」といった限定をつけることを求めます。
意見2. 第一条15号について
改訂案では「第三者に危害の及ぶおそれのある自殺の手段等を紹介するなどの行為」が追加されています。この改訂が昨今の硫化水素自殺に関するものであることは理解しています。
しかし、「第三者に危害の及ぶおそれのある自殺」は、硫化水素などの有毒ガスによる自殺に限定されていません。自殺手段としては古くから広く知られている、ビルからの飛び降り自殺や列車への飛び込み自殺においても、通行人やプラットフォームで列車を待つ乗客が巻き込まれて被害を受けたという報道は時々あります。これらの自殺手段は古くから広く知られているため、多くの小説や映画、ドキュメンタリーなどで詳細に描写されてきました。本改訂案では、そのような記述もインターネット上にあるだけで禁止事項とされる可能性があります。
以前から広く知られている容易な手段と今まであまり知られていなかった手段の紹介を分ける記述は容易ではありませんが、「第三者に危害の及ぶおそれの高い自殺の手段等を紹介するなどの行為」とすれば、飛び降り自殺や列車への飛び込み自殺は除外されると思われるので、修正を願います。ただ、この修正でも放火などによる無理心中の描写が除外されていないと考えられるので、「第三者に危害の及ぶおそれの高い自殺の手段等を自殺に適した手段等として推奨する形で紹介するなどの行為」と限定されると、さらに望ましいと考えます。
意見3. 第一条17号について
全体が新設ですが、「犯罪や違法行為に結びつく、またはそのおそれの高い情報や、他者を不当に誹謗中傷・侮辱したり、プライバシーを侵害したりする情報」について、違法行為の内容が限定されていないため、軽微な違法行為や違法であることについて争いがある行為までが含まれる可能性があり、表現の自由を損なう可能性があると考えます。この部分については、前号までの号番号を適宜明示することで、限定的な内容とするべきだと考えます。
また、「助長する行為」が、行為内容を限定できていないため、契約者に不利だと考えます。「あおりそそのかす行為」に修正することを提案します。
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