2010.03.13
「東京都青少年の健全な育成に関する条例」改正案についての意見書
現在都議会で審議中の「東京都青少年の健全な育成に関する条例」改正案(以下、「条例案」という。)について、以下、当協会の意見を述べます。
1. 既存の情報リテラシー教育の取組に逆行する
青少年インターネット環境整備法では、青少年有害情報の対象については、あくまでも民間に委ねるものとしています。しかしながら条例案は、地方行政が情報の選別に介入するものであって、青少年インターネット環境整備法の精神を踏みにじるものです。
条例案では、携帯電話における青少年のフィルタリングサービスの解除にあたっては、保護者に東京都規則の「正当な理由」に限定された解除理由の書面での提出を求めています。当協会では、保護者の選択の自由を認めない原則義務化に反対します。
保護者が書面に書くことができるほぼ唯一の「正当な理由」は、条例案にあるように携帯電話事業者の提供する履歴閲覧サービスを利用した利用状況の監督を行うことですが、閲覧履歴サービスを提供する事業者は一部に限られています。また、現行の履歴閲覧サービスは、利用者自身の確認を目的として利用者自身にパスワードなどを発行するものです。情報リテラシー教育上、計算機やサービス利用に必要なパスワードなどの認証情報は、自身で管理し、たとえ保護者などの監督者に対してといえども他人には教えないことはごく基本的な内容です。条例案は、これに反する行為を推奨するものです。
青少年のインターネット利用に関する啓発の指針内容は、インターネットの適切な利用によるメリットにも十分に配慮し、過剰に抑制的なものとならないよう、 バランスが取れたものにする必要があります。
2.青少年のインターネット利用への曖昧・不明瞭な権限がある
条例案では、「青少年がインターネットを利用して自己若しくは他人の尊厳を傷つけ、違法若しくは有害な行為をし、又は犯罪若しくは被害を誘発した」場合、行政機関が知事へ通報できるとするほか、その場合に知事が保護者に対し指導または助言、さらに説明や資料提出を求めたり、調査を行ったりすることができるとしています。
現行の青少年保護条例での説明や資料提出の要求、立入調査に関する権限の付与では、権限付与の対象を「知事が指定した知事部局の職員」や「知事が指定した知事部局の職員及び警視総監が指定した警察官」と限定し、調査の対象となる場所を条文に定め、調査等の時間帯と限定し、さらに職員や警察官に、規定の証票の携帯や提示を求め、調査の権限を「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」と限定しています。しかしながら、条例案では、権限を付与する対象を「知事」として実際に指導助言や調査などを行う公務員の範囲を限定していませんし、調査の範囲も限定していません。
条例案は、たとえば警察に、該当する行為を行った青少年の存在を知った場合に行動を起こす権限を与えるものになりえます。「違法」には、犯罪として処罰されることのない、違法着うたダウンロードなどの罰則のない著作権侵害、犯罪とはいえない誹謗中傷などもふくまれるでしょうし、「有害」となるとさらに曖昧です。青少年がネット上で自分の恋人の存在についてつぶやくと、「青少年を性的対象として扱う風潮に加担する有害行為」とみなされてしまうかもしれません。「自己若しくは他人の尊厳を傷つけ」も曖昧であり、「犯罪若しくは被害を誘発した」も、犯罪や被害との因果関係の証明まで行われた上でのものとなるとは読めず、曖昧なものです。
問題とされる行為の主体が青少年であることから、警視庁少年警察活動規程の対象とする範囲をインターネット上の青少年の活動へと拡大するものではないかとも思われますが、少年警察活動規則などで定める「不良行為少年」とは異なり、前例がない規定のためにその対象範囲が抽象的で曖昧だと当協会では考えます。とくに問題なのは、調査対象にインターネット上のサイトを運営する事業者なども含まれる可能性があるにもかかわらず、明示されていないことです。また、調査の内容によっては、当該青少年や、当該青少年と交流する機会のあった他の利用者の通信の秘密やプライバシー等が侵害される可能性もあると思われます。このまま、具体的な施行規則案や規程案の提示もなく都に広範な権限を付与することに対して、当協会では反対します。
3. ブロッキングは表現の自由の侵害である
当協会は、利用者の選択の余地なくインターネット上の対象コンテンツの閲覧を阻害するブロッキングを都が「児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延抑止に向けた」施策として推進することについて反対です。ブロッキングには、誤判定や、対象コンテンツ以外のオーバーブロッキングが不可避であり、憲法の表現の自由に含まれる情報へのアクセスの自由が侵害されます。また、ブロッキングの実現にあたっては、対象コンテンツに対するもの以外を含んだ全てのウェブ閲覧を監視する必要があり、憲法や電気通信事業法にある通信の秘密が侵害されます。とくに「青少年性的視覚描写物のまん延抑止」におけるブロッキングについては、違法ではないコンテンツに対する措置であり、利用者が青少年であるか否かを問わずに閲覧を阻害するものであることから、対象を現行条例の「不健全な図書類」「表示図書類」に相当する内容のものに限ると狭めてもなお表現の自由の侵害は重大であると言わざるをえません。
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