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内閣官房デジタル市場競争本部「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」への意見

MIAUは内閣官房デジタル市場競争本部「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」に関する意見募集に意見を提出しました。

内容は以下の通りです。


「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」に関する意見

一般社団法人インターネットユーザー協会

(該当するページ:P.80)【II. 各論 2.アプリストア関係 2-1.  決済・課金システムの利用義務付け (ウ)対応の方向性 】

「(ア)事実関係」で示された「AppleやGoogleの提供する決済・課金システムの利用強制によるデメリット」で示された懸念は共有する。その上で報告書内でも触れられている通り、決済・課金システムの利用義務付けについては一定のニーズがあり、これは消費者保護観点でも同様と言える。

青少年が保護者のクレジットカードやアカウントを使ってゲームアイテムのようなデジタルコンテンツを大量購入する事例が社会問題化したことを受け、アプリストアが状況に応じて返金に応じる体制があることは評価されている。個別の事業者に対して交渉する場合はポリシーの違いや言語の壁もあり、消費者自身で対応することは難しいケースも多い。

そして現在でも動画や音楽のサブスクリプションサービスなどを中心に、提供されるサービスは同一のものであるが、アプリストアの決済とサービス自身のサイト上での決済では利用料金が異なる状況が続いている。しかし消費者によってはどちらで契約したか不明になったり、さらに返金や払い戻しのポリシーの違いなどから、消費者が一元的に手続きできなくなったりするようなデメリットも指摘されている。

その上では決済・課金システムをアプリストア組み込みのシステムとサービス提供者自身のシステムのどちらを使ったとしても、同様の消費者保護ポリシーを得られるような制度設計を同時に実施すべきである。ゲーム分野においては、日本オンラインゲーム協会の定めたガイドラインのような指針を示し、その遵守を義務付けるなどの施策も必要だ。

(該当するページ:P.103)【II. 各論 2.アプリストア関係 2-3. 信頼あるアプリストア間の競争環境整備(アプリ代替流通経路の容認)(ウ)対応の方向性 】

【I. 総論 2.目指すべき姿と対応に向けた基本的な考え方】 で示されたデジタルプラットフォーム事業者に対する懸念は共有する。原則的にイノベーションは多様な主体があることによる競争によって導かれるものであり、消費者にとって多様な選択の機会があることは重要だ。アプリストアの制限によって市民活動や自由を担保するアプリが配信できなくなる状況が生じているのも事実だ。

しかし、ことスマートフォンやそのアプリストアに関しては、その利用者はすでに幅広く、さらに日常生活に深く紐づいていることから、競争法的なアプローチだけでなく、消費者保護のアプローチにも強く留意すべきだ。

消費者や青少年保護の観点から、アプリ代替流通経路を容認することに関して下記のような懸念が指摘されている。

セキュリティレベルの低下の懸念

競争を促進するためにサードパーティのアプリストアを容認したとして、そのストアで提供されるアプリのセキュリティやプライバシー保護の仕組みが低下するようなことがあってはならない。

現在OS組み込みのアプリストアによる審査がセキュリティやプライバシーを一定程度担保している側面は否定できないだろう。しかし現状でも偽アプリや詐欺アプリなどの不正なアプリが問題となっており、アダルトコンテンツや悪質なマッチングアプリなどを通じた被害も無視できない。

スマートフォンは一番身近な情報端末として、幅広いユーザーが利用していることに強く注意すべきだ。子どもたちだけでなく、情報リテラシーが必ずしも高くない人たちの生活に密着するツールであり、濫用や悪用を防ぐ機能や仕組みが取り入れられてきたことに注目する必要がある。特に未成年者によるデジタルコンテンツ課金(ゲームアイテムなど)を防止するための機能や、その利用状況を把握できる機能の実装も必要不可欠だ。

サードパーティアプリストアの信頼性担保への懸念

サードパーティストア自体のモデレーションポリシーのありかたにも注意する必要がある。当協会の中間報告への意見にも記したが、プライバシーやセキュリティを強くするほうにインセンティブが必ず働くわけではない。競争を促進するためにサードパーティのアプリストアを容認したとして、OS組み込みのアプリストアに対抗するため、あるいはマネタイズのために不正なアプリを容認する「ヤミ市」のようなストアが生じた場合に、どのようなエンフォースメントを、誰が実施するのか。サードパーティのアプリストアには、アプリストア自体のガバナンスについて、第三者による審査などを求めることは必須だと考える。

消費者に対するメリット設計への懸念

一定の安全性とユーザー保護のガイドラインに従うサードパーティのアプリストアがイコールフッティングに成立した場合、それは組み込みのアプリストアと遜色ないものとなるはずだ。その場合にOS組み込みのアプリストアとサードパーティアプリストアのどちらを消費者が選ぶかというと、そのストアにあるアプリのラインナップということになる。どのストアにアプリを公開するかはデベロッパーの自由だが、公共性の高いアプリに関しては、公平性の観点から、ヤミ市的なストアを除き、組み込みでもサードパーティでも原則全てのストアで広く入手できるようにすべきだ。公共性の高いアプリの取得のためには特定のサードパーティストアが必要となることをメリットとすることはあってはならない。

 

上記で挙げた懸念については、本報告書にも触れられており、本項は「信頼あるアプリストア間の競争環境の整備を目指すもの」とし、アプリ代替流通経路容認を求める規律の設計の必要性を認識していることは承知している。その上でアプリストア間の競争に関しては、競争法的な観点だけでなく、消費者保護を第一義としてその規律設計がなされるべきであることをさらに強調して記載すべきだ。競争の促進のために、消費者のセキュリティやプライバシーを損ねることがあってはならない。

そして本件については欧米でも同様の議論が行われていると承知しており、その動向をもうしばらく観察し、その知見を我が国の政策に活かすべきだと考える。そしてその間に、青少年だけではなく、学校でITリテラシー教育を受ける機会のなかった世代に対するデジタル・シティズンシップの普及啓発を実施することを通じた、本質的な競争環境の整備も求められる。

以上

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