内閣官房TPP政府対策本部に「日本のTPP交渉参加に関する意見」を提出しました

MIAUは、内閣官房TPP政府対策本部に「日本のTPP交渉参加に関する意見」を提出しました。

内容は以下の通りです。

2013年7月17日

日本のTPP交渉参加に関する意見

一般社団法人 インターネットユーザー協会(MIAU)

・該当する交渉分野

知的財産

・意見

【総論】

TPP協定交渉における知的財産分野の除外あるいは交渉項目の縮減を求める

TPP協定の知的財産分野においては内閣官房TPP政府対策本部作成のテキスト「TPP協定交渉について」で公開されている範囲だけでも、著作権の保護期間、著作権侵害の職権による刑事手続、法定損害賠償、インターネットサービスプロバイダの責任制限といった重大な制度改変につながる規定が多数盛り込まれている。これらはわが国の国情にあわないとして過去に異論が強かったものであり、急速に導入すれば日本の文化ならびに関連する産業の活力を損ないかねない。

特に、あまりに多くの知財条項を条約上の義務として受けいれてしまえば、今後、ビジネス情勢や国民の多数意見が変わっても、国会ですらそのルールは変更できない点で影響は深刻である。それでは変化が早く柔軟性が生命線と言える昨今の文化・情報産業において、かえって日本の競争力を削ぐ危険がある。

知財条項については特に各国の対立も根強く、米国が孤立気味との報道(日本経済新聞3月5日)もあるため、日本の交渉方針として、知財条項をTPP協定交渉の対象外とする、もしくは下記規定を中心に対象条項を大幅に縮減することを検討すべきだ。

またいわゆるISDS条項についても、わが国の知財政策に重大な影響を与える可能性があるため、慎重な検討を要望する。

TPP協定における交渉内容の公開および国民に向けた情報アクセスの確保

TPP協定交渉の最大の問題は、TPP協定の対象である21項目24分野のすべてにおいてわが国の今後の政策に重大な影響を与えるにも関わらず、ルールが国際的な秘密交渉で一部の関係者によって決められ、かつ、条約上の義務として長期固定されることである。つまり膨大な交渉項目について一部の関係者だけが「国益は何か」を判断して取捨選択することとなり、国民には実質的な検討の機会が与えられない。国民に与えられるのは批准に向けた国会審議だけであり、そこでは政府が交渉済みの条文パッケージを提示するだけである。これでは、民主的なかたちで国益をふまえたTPPの交渉を行うことは不可能だ。特に知的財産分野は今や国民が等しく当事者となるものであり、そのためしばしば激しい論争を招く。しかし、そうであればこそ、オープンな徹底した議論からルールを築き上げるほかに道はない。

TPP協定においては知的財産分野に限らず、多くの分野でさまざまな立場の人々が賛否を問わず意見を表明している。しかしTPP協定に対する立場にかかわらず、多くの国民およびステークホルダーが希望していることはTPP協定交渉の透明化である。TPP協定交渉の厳格な秘密協議性には交渉各国においても懸念が強く、米国でも多くの議員が情報アクセスを求める公開書簡をオバマ大統領に送付するなど異論が高まっている。

当協会はTPP協定交渉の全面公開を強く求める。またステークホルダーに限らない、広く国民に向けたTPP協定の説明と意見募集の機会を設け、広い層の利害関係者からの多様な意見聴取を行うべきである。特に知的財産分野については権利者や権利者団体だけではなく、産業界、技術やコンテンツの利用態様に明るいユーザーの代表からの意見聴取を行うべきである。ICT産業やコンテンツ産業の一部においては、ユーザーの利便性への要求が産業を成長させてきた。特に近年では、ユーザー生成メディアが莫大な利益を生み、あらゆるコンシューマビジネスがこれを取り入れつつあることは周知のとおりである。このようにユーザーの利便性を高めることは産業界のイノベーションを産み、コンテンツの利用の拡大をもたらす。もしTPP協定交渉の透明化が不可能な場合は、TPP協定が未来のわが国の知的財産政策および情報通信政策に与えるインパクトの大きさを鑑みて、わが国はTPP協定の交渉から知的財産分野を外すことを求める。


【「TPP協定交渉について」に掲載されている知的財産分野における個別の交渉項目について】

説明会の際に配布された内閣官房TPP政府対策本部作成のテキスト「TPP協定交渉について」で説明されている知的財産分野における交渉項目のうち、以下の四つの項目に対する当協会の意見は以下のとおりである。

■著作権保護期間

現在わが国においては著作権の保護期間は著作者の没後50年間(映画の著作物は公表後70年間)であるが、TPP協定交渉においてはこの保護期間を延長し、著作者の没後70年ないしは発行後95年間などに延長する要求が米国などから出されているようである。しかしわが国は著作権保護期間のこれ以上の延長はすべきでない。理由は以下のとおりである。

1. 著作権保護期間を延長することで生じるポジティブな経済効果はない

著作権保護期間を延長することによる経済効果についてこれまでさまざまな研究が行われてきたが、著作権保護期間を延長することで大きな経済効果が生ずるとした研究結果はない。また大多数の著作物は著作者没後50年を待たずに商業的な価値を失い、死蔵されてしまうという研究結果がある。著作権保護期間が延長された米国においても、延長の結果として著作物の創造や流通が促進されたという実証結果はない。

日本銀行のデータによれば、日本の2012年の国際収支のうち著作権等使用料は6014億円の赤字であり、この赤字額は年々増加傾向にある。特にこの赤字のうち、4分の3は北米に向けて支払っている著作権等使用料である。つまり日本はコンテンツの輸入国であり、そのコンテンツの多くを北米から輸入している。特に北米ではごく一部の古いコンテンツが現在も輸出されており、比較的新しいコンテンツを輸出しているわが国とは対照的である。わが国が輸出しているコンテンツの著作権保護期間が切れるまでには時間的に余裕があり、また先に述べたとおり、大多数の著作物は著作者没後50年を待たずに商業的な価値を失うことから、これらのコンテンツが将来的に現在の赤字額を解消するような利益を生むかは未知数である。このような現状を鑑みると、コンテンツ輸入国であるわが国にとっては、著作権保護期間が延長されたとしても、現在輸入している古いコンテンツの著作権使用料を支払うべき期間がさらに延びるだけであり、国際収支における著作権等使用料の赤字はさらに増大する。つまり拙速な著作権保護期間の延長は、経済的な損失を生むだけである。

TPP協定は国際的な経済連携戦略であるから、わが国が経済的な不利益を被る拙策な著作権保護期間の延長は誤った戦略であり、国益に資さない。

2. 著作物の利用を阻害し、文化の振興を妨げる

著作権保護期間を延長することによって、著作物の著作権者の所在がより不明になりやすくなる。このような著作物は孤児作品(Orphan Works)と呼ばれ、その孤児作品の保存と活用が世界的な問題となっている。これは過去の作品に限った問題ではない。現代の著作物においては非常の多くの人がその制作に関わっており、制作に関わった関係者にも著作隣接権が付与される。その著作物を保存・活用しようとした場合、著作隣接権者を含めたすべての著作者に許諾を取る必要があるが、数年前に制作された著作物であっても著作者が不明という理由で許諾を取ることが不可能なケースも発生しており、保護期間の延長がそれに拍車をかけることになる。

またインターネットが普及したことでインターネット上で著作物を公開する人々が急増しており、その中には著作者不明の著作物も多い。このような著作物は今後急増することが予想される。著作権保護期間を延長することは、このような孤児作品をさらに増やすことにつながり、著作物の死蔵を促す。

一方で著作権の保護期間が早く終われば、その著作物を用いて二次的著作物を制作したり、その作品を上演したりする際の許諾や著作権使用料が不要となるため、二次的著作物の制作や作品の上演が大きく加速される。結果として近代や現代の作品を演奏・上演する楽団や劇団などが増加し、著作物の漫画化やノベライズ、パロディといった新たな創作物の出現が活性化される。

さらに著作権が切れた著作物(パブリックドメイン)を利用することで、新たなビジネスが生まれている。例えば著作権が切れた書籍のデジタル化を進めている「青空文庫」のデータは数多くの電子書籍端末などに収録されており、日本における電子書籍の普及に役立っている。しかし著作権保護期間の延長によって、このような創造のサイクルが大きな打撃を受け、新たなビジネスチャンスを失うことになる。

3. 著作権保護期間の延長は国際的な潮流ではない

ベルヌ条約では著作権保護期間は著作者の没後50年間と定められている。著作権保護期間を没後50年間以上に定めている国がおよそ70カ国であるのに対し、没後50年間に定めているのはおよそ110カ国で、世界的な視点で見ると没後50年間に定めている国々のほうが多い。TPP参加国においても没後50年間を超える国々はメキシコ、米国、ペルー、シンガポール、オーストラリアの5カ国、没後50年の国々はカナダ、チリ、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、ニュージーランド、そして日本の7カ国であり、没後50年の国々のほうが多い。著作権保護期間の差を非関税障壁と見るならば、数の多い没後50年に合わせるべきである。

また米国においても著作権局長が公聴会で「偉大な次世代の著作権法」(The Next Great Copyright Act)として著作権保護期間の短縮を発言するなど、著作権保護期間に関する議論が高まっている現状がある。つまり著作権保護期間の延長は決して国際的な潮流ではない。

■著作権侵害に対する職権による刑事手続

わが国の著作権法においては、著作権侵害における刑事手続は権利者からの申し立てによるもの(親告罪)であるが、TPP交渉においてはこれを職権によって刑事手続を行うことができる(非親告罪)ようにする要求が米国などから提出されているようである。しかしわが国は著作権侵害を非親告罪とすべきではない。

わが国には二次的著作物やパロディに関する法制度が存在せず、司法では二次的著作物やパロディは著作権侵害と判断される。しかし現実には二次的著作物やパロディによる作品が数多く存在しており、今やそれらは日本の文化の一翼を担っている。そしてこのわが国独自の個性豊かな文化は世界に向け発信され、世界の共感を得ている。これは知的財産戦略本部が策定した「知的財産戦略2013」の中にも盛り込まれている「クール・ジャパン」の源泉となっている。このような文化が熟成されたのは二次的著作物やパロディについて、その制作者と原著作者との間に信頼関係があり、著作者が黙認していたことに由来する。しかし著作権侵害が非親告罪となれば、このような信頼関係に関わらずあらゆる二次的著作物やパロディが刑事告訴の対象となり、パロディ法制などのないわが国においては「クール・ジャパン」の源泉となる文化が萎縮する結果となり、国益を害する。

また著作権侵害が非親告罪となることで相対的に捜査機関の権力が増大し、これまで見逃されていたような軽微な著作権侵害について著作権侵害を理由に捜査機関が逮捕することができるようになる。またインターネットでダウンロードされたファイルが違法なものかどうかは技術的・外形的に判断できないという根本的な問題もあり、これは別件逮捕などの違法な捜査を助長するおそれがある。

■民事救済における著作権侵害における法定損害賠償

現在わが国においては著作権侵害における損害賠償額は、実際の被害額に応じて算定されているが、TPP協定交渉においてはこれを法定損害賠償とする要求が米国などから出されているようである。しかしわが国は著作権侵害において法定損害賠償を導入すべきではない。

実損害額によらない法定損害賠償額の算定では賠償額が高額になる傾向にある。高額な賠償額の設定に著作権侵害の抑止的な効果を見込む声もあるが、これによって軽微な著作権侵害においても訴訟が乱発されるようになり、社会的な混乱を引き起こす原因となる。軽微な著作権侵害の乱発が混乱をもたらした実例がドイツである。ドイツでは民事裁判・附帯私訴での賠償金獲得を目的に、著作権侵害者を捜査機関に捜査させるための刑事告訴が急増した。ドイツでは起訴便宜主義ではなく起訴法定主義が採られていることもあって、軽微な事案を含めた著作権訴訟の乱発により捜査機関が混乱し、本来捜査すべき事件の捜査に影響をきたす事態をもたらした。その結果、裁判手続に先立ち当事者同士の示談による解決を図ること、通信データの開示は裁判所が決定し開示請求費用は権利者が負担することなど、著作権裁判の乱発を防ぐ目的の法改正を余儀なくされるに至った。

またインターネット上に無料で公開されている画像の利用のような軽微な著作権侵害であっても、それに対して高額な損害賠償金をちらつかせ、高額な和解金とともに和解を迫るコピーライト・トロールの存在が世界的に問題となっているが、法定損害賠償はこのコピーライト・トロールの温床を作ることにもつながる。特に対象の著作物がポルノ作品などであった場合は、その著作物の特殊性から実際に侵害行為がなかったとしてもユーザーが法外な和解に応じてしまうことが多く、日本の出会い系サイトにおける振り込め詐欺にも似た犯罪に利用されてしまう可能性にもつながる。

■インターネットサービスプロバイダの責任制限

TPP協定交渉においてはインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)による利用者の著作権侵害に対策する措置として、米国のデジタルミレニアム著作権法(DMCA)に則った「ノーティス・アンド・テイクダウン・システム」の導入、そして利用者が著作権侵害を3度繰り返した場合にその利用者がインターネットへ接続することを禁止する「スリーストライク・ルール」などの導入の要求が米国などから出されているようである。しかしわが国はISPの責任制限として「ノーティス・アンド・テイクダウン・システム」および「スリーストライク・ルール」などの反復侵害者のインターネット接続解除を導入すべきではない。

「ノーティス・アンド・テイクダウン・システム」について

「ノーティス・アンド・テイクダウン・システム」は、実際の侵害の有無を確認することなくISPがコンテンツを削除することを強制するという点で、表現の自由やプライバシーといったユーザーの権利を深刻に損なう可能性が高く、また最近はBOTプログラムによって自動化された著作権侵害通知が実際の侵害が確認されることなくISPに対して大量に送られている現状もあり、目的に比して手段としての適切性を著しく欠くものである。

これに対し、権利者から侵害の可能性について通知された場合、侵害者と目されたユーザーにISPが通知を転送すること、そしてユーザーごとに通知転送の事実と、場合によっては通信の秘密に抵触しない範囲で一定期間の利用者の利用状況を記録しておくことを義務づける「ノーティス・アンド・ノーティス・システム」では、悪質な侵害コンテンツの排除とユーザーの自由の両方を確保することができ、より適切と言える。すでにこのシステムが導入されたカナダでは、通知されたうち71%のユーザーが侵害コンテンツを自主的に削除するなど、大きな成果を挙げている。侵害者の大半が、そもそも自分が侵害していることに気づいていないか軽視している「カジュアルな」侵害者であることを考えれば、この数字は当然のものと言える。日本においても日本レコード協会によるメールでの警告が有効に機能したという事例がある。もちろん、悪意ある常習的な侵害者に対しては、権利者は情報開示請求の後に記録を根拠とした強力な対応が可能である。コストの面でも、侵害通知とその転送は大幅な自動化が可能であり、少なくとも「ノーティス・アンド・テイクダウン・システム」に要するコストを著しく上回るものにはなりえない。

このように「ノーティス・アンド・ノーティス・システム」は、権利者の権利、ユーザーの権利、そして仲介者たるISPの責任制限という点で、最もバランスがとれた優れた措置と考えられる。わが国はISPの責任制限としてこの「ノーティス・アンド・ノーティス・システム」の導入を主張すべきである。

「スリーストライク・ルール」などの反復侵害者のインターネット接続解除について

インターネットはすでに世界中で人々の生活を支えるインフラとなり、民間に限らず公的な情報の発信や手続きにも利用されている。また現代においてはインターネットに接続されているのはコンピュータに限らず、携帯電話や家電などの生活必需品もインターネットに接続され始めている。また新聞やテレビ、ラジオなどの情報インフラもその媒体にIP化が進んでいる。インターネットへ接続することは表現の自由や知る権利といった基本的人権を行使する上での重要な手段となった。このような現代においてインターネットへの接続を規制することは基本的人権が制限される公民権停止に等しい行為であり、著作権侵害は基本的人権が制限される必要がある重大な犯罪にはあてはまらない。


【「TPP協定交渉について」に掲載のない知的財産分野における個別の交渉項目について】

以下の項目は説明会の際に配布された内閣官房TPP政府対策本部作成のテキスト「TPP協定交渉について」には交渉項目として挙がっていない項目ではあるが、1994年から2008年までの間にわが国と米国の間で交換されていた日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書(いわゆる年次改革要望書)や2011年にわが国と米国との間で開催された日米経済調和対話の中で米国がわが国に要求した事項、および米韓FTAに代表される米国が結んだFTAの中で米国が知的財産分野において相手国に要求した事項である。米国が国家間で通商交渉を行う際に提示する知的財産分野の要求事項はフォーマット化されており、TPP交渉においても同様であることが予想される。

■技術的保護手段

わが国ではデジタルコンテンツの技術的保護手段について、コピーコントロールの回避行為は1999年の著作権法の改正で規制された。またアクセスコントロールの回避行為についても2012年の著作権法の改正で規制された。またコピーコントロールおよびアクセスコントロールの回避のための技術の提供行為も不正競争防止法で規制されている。特にアクセスコントロール回避規制については、ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定・模造品海賊版拡散防止条約)批准に向けた法制度の整備として進められた。

しかし無条件のデジタルロック回避規制は、消費者が購入したコンテンツを永続的に保つことを不可能とするなど、消費者の正当なコンテンツの利活用を不当に妨げている。またオープンソースソフトウェアを用いてデジタルロックのかかったコンテンツを利用することは不可能であり、これはICT技術の発展および教育の機会を不当に妨げる原因となっている。さらに視覚障害者が電子書籍を読むためには電子書籍のデータを点字化する必要があるが、そのようなデータの加工はデジタルロックをかけたままの状態では不可能であり、障害者の情報アクセスを妨げる原因となっている。

これまで挙げたようなデジタルロックの回避規制が持つ問題を解決する法制度は未だ未整備であり、今後のわが国の課題であるといえる。また多くの問題点を抱えるデジタルロックの回避規制は、コンテンツ立国、技術立国、教育立国を是とするわが国の政策として誤っており、デジタルロックの回避規制を貿易相手国に要求することは、わが国の国際通商政策として重大な問題がある。

■電磁的な一時的複製の規制

著作物を一時的に電磁的なかたちで記憶装置に複製する行為についても複製権の対象とし、許諾なく電磁的な一時的複製を行った場合も著作権侵害とするような枠組みの策定が議論されている。しかしわが国は電磁的な一時的複製を著作権侵害とする要求を受けいれるべきではない。また国際的な経済連携協定に電磁的な一時的複製を規制する条項が入ること自体に強硬に反対すべきである。

現代のコンピュータはプログラムとそのプログラムが処理するファイルの一時的な複製をメモリーに自動的に作り続けることで動作する。またインターネットの利用においては、ネットワークから受け取ったデータを先読みしてメモリーにバッファしておくことで大容量のストリーミングコンテンツを快適に利用することができる。また一度見たウェブサイトのデータをハードディスクに一時的に保存しておくことで、高速なウェブサイトのブラウズが可能となり、またトラフィックの軽減につながるため、ネットワーク資源を有効に活用することができる。このように電磁的な一時的複製はコンピューティングを支える基幹の技術であり、電磁的な一時的複製を規制することはIT技術の実際と大きくかけ離れており、全く現実的ではない。

■著作権保護の例外

日米経済調和対話の米国側関心事項として「すべての著作物を対象に、日本の著作権法の私的使用に関する例外規定が違法な情報源からのダウンロードには適用されないことを明確にする」ことが要求されている。現在の日本の著作権法では著作権侵害コンテンツのダウンロードのうち、刑事罰の対象になるのはデジタル方式の録音と録画に限定されているが、これはこの刑事罰の対象をすべての著作物に広げることを求められている。しかしわが国は違法ダウンロードのコンテンツの範囲をすべての著作物を対象とすべきではない。

インターネットでダウンロード可能な情報が違法なものかどうかは、技術的・外形的に判断することが出来ない。また、今日インターネットに接続されている機器は、パーソナルコンピュータに限らず、携帯電話やスマートフォン、家電なども多い。その一つ一つがダウンロードしているデータの正当性は、ユーザーが確かめることも機器が確かめることも、物量的・技術的に不可能である。特にテキストファイルや画像ファイルはインターネットで最も多く通信されるファイルであり、ブログをテキストエディタにコピーして印刷したり、気に入った画像をダウンロードしてコンピュータの壁紙にすることすらも刑事罰の対象となりえる状態は、「絶対に執行の出来ない法」を作ることにほかならず、法の下の平等の精神に反する。

また、ウェブ上のコンテンツは、ディスプレイでの表示は明示的に許諾されていると考えられるが、ページの印刷やPDF化、クリップ、プログラムでの取得などといった、作者側が想定していないものの、現在のインターネット上のコンテンツに対して当たり前に行われている行為は、フェアユース規定などがない限り、形式的に違法となり刑事罰の対象となると予想される。

このようにダウンロードによる著作権侵害の対象となるコンテンツの範囲をすべての著作物に広げることは現在のインターネットの利用の実態と大きくかけ離れており、全く現実的ではない。いたずらに著作権侵害の対象となるコンテンツの範囲を拡張するのではなく、違法アップローダーや違法アップロードされたコンテンツへの対処でカバーすべきである。これは現状の法制度で十分可能な対策だ。

■並行輸入の禁止

国内と国外で同一の製品や情報、コンテンツが販売されている場合、その製品や情報、コンテンツについて国外から並行輸入することについて禁止する枠組みの策定が議論されている。しかしわが国は真正品の並行輸入を禁止する要求を受けいれるべきではない。特に音楽コンテンツについては2005年に施行された改正著作権法に音楽レコードの還流防止措置を導入した際に、国内で大きな議論を巻き起こしたことを忘れてはならない。製品や情報、コンテンツの入手方法については、それらが真正品である場合においては消費者には選択の自由が担保されるべきである。

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最終更新日 : 2013-07-17 13:15:14