2021.10.14
文化庁「簡素で一元的な権利処理に関する 論点への意見」に意見を提出しました
MIAUは文化審議会著作権分科会基本政策小委員会「簡素で一元的な権利処理」の在り方に関する意見募集に意見を提出しました。
内容は以下の通りです。
文化審議会著作権分科会基本政策小委員会「簡素で一元的な権利処理」の在り方に関する意見
Ⅰ.目指すべき方向性と留意すべき点
“利用円滑化による対価還元の創出や増加が新たな創作活動につながるという 「 コンテンツ創作の好循環」 の 最大化を目指す”という、基本政策小委員会が目指す大枠の方針には賛成する。その上で下記の点も留意点として追加したり、議論の中で確認するなどして、論点化することを要望する。
- 前提として、コンテンツ利用形態として、現在の著作権法の範囲で可能とされている範囲を狭めるようなことをないように議論することを確認してほしい。
- 著作権保護期間がTPPによって70年に延長されたことにより、コンテンツがパブリックドメインとして利用されるまでの期間をさらに20年伸ばしてしまった。また著作権保護期間がコンテンツによって異なる状況も生じている。デジタルによって生成されるコンテンツの量が増え、コンテンツの利用も増加・多様化し、さらにパブリックドメインになるまでに期間が20年延びる状況では、今後の権利処理コストは膨大なものとなる。当会としては著作権保護期間を50年に戻すことを主張したい。その上で著作権保護期間を70年とせねばならないのであれば、作者の死後も長期間に渡って権利処理が必要なコンテンツが今後増え続けること、そしてそれらに対して踏み込んだ解決策が求められることに十分留意すべきだ。
- 「クリエイターの意思(許諾権等)を尊重する」とあるが、許諾権を前提とした考え方は、利用円滑化による対価還元の創出や増加を目指すには噛み合わせが悪い。利用促進と対価還元を両立するには、まず許諾権ありきの考え方を見直し、著作権を報酬請求権化するところから議論すべきである。
- 対価還元の創出や増加と直結しない方策についても、その検討や導入の議論が阻害されないようにしてほしい。例えば青空文庫のような民間のアーカイブ活動や、個人が所有するコンテンツの利用について、それらを促進するような方策も文化振興策として検討すべきだ。
- 「利用者が安心して著作物を利用できる仕組み」とあるが、この文脈のおける「利用者」とは具体的にどこを見ているのかを明確にしてほしい。具体的には二次創作のような、あるコンテンツをベースとした素材を用いて新たな創作を行うクリエイターを利用者と称しているのか、あるいはコンテンツの享受者(鑑賞者、所有者)を利用者と称しているのか。その上で本議論において利用者にコンテンツの享受者の側面が入ってないようであれば、それも議論に加えることを検討してほしい。
- 「利用者が安心して著作物を利用できる仕組み」とあるが、ここには利用者や消費者の支払う利用料についての議論も入れ込むことに留意してほしい。コンテンツの価格はそのクリエイターが決めるべきであるが、「簡素で一元的な権利処理」という点では利用者にとっても納得感のある利用料である必要がある。
Ⅱ.想定される場面
論点に掲載されている「想定される場面」はすべて喫緊の課題であり、審議会で議論し、解決すべき場面だと考える。
その上で「UGC(一般ユーザーが創作する作品)等のデジタルコンテンツのインターネット配信等の二次利用」については、その範囲が広大であり、この文言だけでは何を示しているのかがわかりにくい。特に将来の姿を考える議論においては、プラットフォームとそのユーザーという関係を前提としたUGCという言葉は議論にミスリードを生むと考える。現在インターネットで生じている活動を見ても分かる通り、クリエイターとユーザーの境目がなくなってきているからだ。ゆえにここでは「UGC(一般ユーザーが創作する作品)等の」を削除し、デジタルコンテンツ一般の議論とすることが適切である。
また下記場面についても課題があり、今回の検討の範囲として入れ込むべきである。
- 青空文庫に代表される民間によるアーカイブ活動。青空文庫はテキストをベースとしているが、今後は米国のInternet Archiveのような画像や映像、音声データ、プログラムの著作物なども対象とするアーカイブ活動が我が国においても生まれるような環境を整備する議論が必要ではないか。
Ⅲ.具体的な方策
- 先の著作権法改正で、地方自治体などに対しては裁定制度における供託金を後払いとした点は評価できる。一方で地方行政が権利者不明の著作物を積極利用するケースはそれほど頻繁にあるわけではなく、また地方自治体が絶対に破綻しないことが担保されているわけでもない。このことから、むしろこの制度は、一定の資本金を有する法人にまで拡大してもよいのではないか。
- 技術の進展や新たな表現手法などによって新たに可能となった利用形態について、それについて毎回検討を行い、場合によっては個別に権利制限規定を設けるといったようなプロセスを踏んでいるようではイノベーションが阻害され、本議論の目指す好循環を生み出すことができなくなる。現在の社会状況に対応した利用の円滑化を行う上では、米国のフェアユース規定を範とした柔軟な権利制限規定の導入が求められる。米国はもちろん、中国や台湾、韓国などの周辺国もフェアユース規定を導入している。DX時代において我が国が知財立国、そして文化立国として存在感を高めるためにもこのタイミングでフェアユース規定を導入することは必須である。
- 利用と対価の両立に関しては、大英博物館も参入したNon-Fungible Token(非代替性トークン)によるNFTアートの取り組みなど、ブロックチェーン技術を利用したが参考になるのではないか。現在はまだ1点ものの管理にしか使用されていないが、これを小規模かつ大量の利用に適用する可能性やリスクに関する調査研究を積極的に推進すべきである。
- 無方式主義は根本的に「利用円滑化による対価還元の創出や増加」させることに向いていない。その上で今回は具体的な方策として、権利情報データベースの構築が論点として上がっているが、そうであるならばデータベースに登録があった著作物については報酬請求権化するような、いわゆる「2階建て」の議論の導入を改めて本格的に議論すべきだ。
- 権利情報データベースが実現したとして、それに収録されていない作品については手がかりが極めて少なくなる。特に古い作品についてはパブリックドメインか否かが利活用を考える上で重要な判断基準となるが、論点に示されているような著作権保護期間に関する不明確さが利用円滑化を妨げている。著作権保護期間における戦時加算の存在もその不明確さの一端であり、現状ではTPPによって延長された70年の保護期間に戦時加算が上乗せされる状況となっている。権利処理が容易に行える、ないしは権利処理をせずとも利用できるコンテンツを増やすためにも、戦時加算を撤廃する施策を考えるべきである。
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