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プレスリリース

2009.04.02

「知的財産推進計画2008」見直しへのパブリックコメント

MIAUは「知的財産推進計画2008」の見直しに関する意見募集を受け、3月25日付で内閣官房知的財産戦略推進事務局へ以下の内容をパブリックコメントとして提出いたしましたことをご報告致します。

意見の概要(150字以内)

知的戦略2008で提示している方向性については概ね賛同するが、本年度中に結論を得るとしながら進展の見られない施策が多く、実現強化に向けてのてこ入れが必須と考える。また施策見直しに際しては、ユーザー自らが知財創出に関わる事例が増えつつある現状を踏まえ、ユーザーの参加・協働を視野に入れた検討を期待する。

以下に、「知的財産戦略2008」の見直しに際しての全体的な意見と、各論に対する意見とを分けて記載する。

全体意見

  • 知財戦略2008で提示されている基本的な方向性については概ね賛同する。しかしながら、本年度中に結論を得るとしながらも実質的には進展が得られない施策がほとんどであり、すでに知的財産推進計画そのものが形骸化し始めている感は否めない。各担当省庁に対して、その実行責任を負わせるなど、実現強化へ向けてのてこ入れが必要である。
  • 世界最先端の情報通信基盤やデジタルコンテンツの創造・流通の環境下においては現在、製作者/ユーザーといった従来の区分が通用しないプロシューマーとも呼ばれる自ら創作・消費を行う先進的なユーザーが登場しつつある。彼らの活用をもっと視野に入れた施策の検討を期待する。
  • オープンイノベーションという意味でも、産官学の連携だけでなく、ユーザーとの共創・協働から新しいイノベーションを生み出すことが重要。今後は、活発なユーザーの消費、協働、共創等を後押しする法制度や制度運用の議論を期待する。
  • 特に知的財産の保護・活用に際しては、慣習として認められてきたユーザーの利用を過度に制限することのない、柔軟な対応を求める。
  • 知的財産施策ならびに人材教育にあたっては、知的財産戦略推進をトータルで推進する強力な機構が必要。現状では、私的録音録画補償金問題の議論やダビング 10導入の議論で見られたように、総務省、文化庁、経産省などの諸省庁が各々のアプローチから知的財産に関する問題を取り扱うため、方針の行き違いや重複による弊害が見られる。

各論

重点編(p7~21)

Ⅰ-2-(1).情報アクセスの抜本的改善等によりオープン・イノベーションへの取組を強化する(p10)

  • 基本的な方向性は支持。
  • ここで示された取組が産業界に閉じることなく、広く一般ユーザー、コンシューマにまで解放されることを望む。

Ⅰ-2-(2).デジタルコンテンツの創造・流通の好循環を形成し世界有数のコンテンツ産業を育成する(p11)

  • 基本的な方向性は支持。
  • デジタルコンテンツの創造・流通に関する新たな法制度の整備にあたっては、時代の変化を踏まえ、既存の既得権益に縛られない抜本的な改正を求める。
  • 「一億総クリエイター時代に対応した」との記述があるが、一億総クリエイターとは、一億人をクリエイターにすることではなく、誰しもがクリエイターになり得る「土壌」を作るのだという点を明確にする必要がある。また、独創性を持つに至るまでには、デッドコピーを超えるための教育、技術的なトレーニングが必要なプロセスであることにも留意した上で、創作活動への導線と流通・活用のサイクルを広げていくような施策や環境整備等に関する議論を期待する。

本編

第1章 知的財産の創造(p25~32)

  • ユーザーサイドの取組やユーザー参加型でのイノベーション創出をも意識した、施策展開や環境整備を求める。

第2章 知的財産の保護(p33~61)

Ⅱ-4-(1).インターネットオークション上の模倣品・海賊版の取引を防止する(p57)

  • 海賊品等の販売業者の取り締まりに加え、消費者保護および救済の観点も盛り込むべきではないか。

Ⅱ-4-(2).インターネット上の海賊行為への対策を強化する(p58)

  • 違法コンテンツ配信の根絶に向けた取り組みは、現実問題としていたちごっこにならざるを得ない。どれほど取り締まりを強化しても、海外への対策等も含めれば対応は後手となってしまう。むしろ、海賊版よりも使い勝手の良い正規サービスの開発を促す等、新しいビジネスを創出するという面での取り組み強化を求める。
  • 上記の視点からも、ユーザーがこれら違法コンテンツを積極的に求めているという性悪説を仮定した施策では、むしろユーザーの反発から逆効果を生む事が懸念される。ユーザーに対する教育や啓蒙にあたっては、性善説にたった施策の展開を求める。
  • 「適法サイト識別マーク」のような手段は、国際的に整合した取り組みを行うことは非常に困難で多くの課題が残っており、一部の業界団体だけによる中途半端な施策の導入では、かえってユーザー側での混乱を生むだけである。利用ユーザー側の視点にたった施策の抜本的な見直しを求める。
  • 例えば、現状「適法サイト識別マーク」と目されるエルマークは、商標として運用されており、社団法人日本レコード協会(RIAJ)等から許諾を得た音楽配信事業者であることを示す出所表示機能と、RIAJ等と契約した上でレコード音源等を配信していることを示す品質保証機能を有するのみであり、「適法サイトであること」を証明しているわけではない。したがって、エルマークを有しないサイトであっても適法音楽配信サイトが海外サイト等を含め多数存在する以上、「エルマークが表示されていないサイトは、違法サイトである」ということを立証するものではない。ユーザー側から見れば、まったく無意味な施策であると言わざるを得ない。

Ⅱ-5.模倣品・海賊版に関する国民の理解を促進する(p59)

  • 模倣品・海賊版に関する理解促進や啓蒙活動にあたっては、消費者が積極的にこれらを求めているという性悪説を想定した施策では、むしろ消費者の反発から逆効果を生む事が懸念される。消費者に対する教育や啓蒙にあたっては、性善説にたった施策の展開を求める。

第3章 知的財産の活用(p62~83)

Ⅰ-1-(1).様々な知的財産の融合によるイノベーション創出を促進する(p62)

  • ユーザーサイドの取組やユーザー参加型でのイノベーション創出をも意識した、施策展開や環境整備を求める。

Ⅰ-1-(5).知的財産の円滑・公正な活用を促進する(p67)

  • 基本的な方向性は支持。
  • 現状の知財制度、排他的独占権の強固な著作権制度においては、消費者の側が比較的弱い立場に置かれやすい。米国におけるフェアユースのような法理を導入し、公共の福祉に反するような過度な権利濫用を抑止すべきである。

Ⅱ-2.コモンズの取組やオープンソースソフトウェアの活用を促進する(p74)

  • 「既存の知財権制度の利用を前提に」とあるが、今後はフェアユースの導入等もにらんだ抜本的な制度改革を望む。
  • また、ニコニコ動画における「ニコニ・コモンズ」やpixivにおける「pixivコモンズ」などのように、プロシューマないしCGMを扱う企業では、既存の著作権制度の枠組みを超えたライセンスやガイドライン策定等に苦心しているのが現状である。こういった問題を考慮し、対象企業へのヒアリングや基準となるガイドライン策定等の取り組みを期待する。

第4章 コンテンツをいかした文化創造国家づくり(p84~108)

Ⅰ-1-(1).動画配信ビジネスの成長を支援する(p84)

  • 現状の議論を鑑みると、サービス事業者だけでなく、その利用ユーザーまでもが萎縮してしまうような議論が進んでいることに大きな危惧を覚える(ダウンロード違法化等)。もう一度、本方向性に立ち返り、これまでの既存制度の抜本的見直しを行うよう期待する。
  • 「5地上デジタル放送に係るインフラ整備を促進する」に関しては、現在EPGとして放送されている番組情報を含むメタデータを、公開された情報であるという認識のもとに、広く一般に利用せしめるような方策を期待する。

Ⅰ-1-(2) .新しいビジネス展開に関わる法的課題を解決する(p85)

  • 「新たなコンテンツの創作への寄与等を考慮しつつ、利用者からみたサービスの形態に応じた、権利関係の規定の見直しや著作隣接権の在り方の検討を2008年度から開始する」とあるが、現状の議論では、利用者視点が抜け落ちている感が否めない。利用者側の声を最大限に取り入れた解決案の検討を求める。

Ⅰ-1-(3).デジタル・ネット時代に対応した知財制度を整備する(p86)

  • 「新たなコンテンツの利用形態を視野に入れた流通促進の枠組み、包括的な権利制限規定の導入も含めて新たな技術進歩や利用形態等に柔軟に対応し得る知財制度の在り方、ネット上の違法な利用に対する対策強化等について早急に検討を行い、2008年度中に結論を得る。」について、有効な議論・方向性が打ち出されてるとは思えない。むしろ、新しい利用形態をいたずらに阻害する方向で議論が進んでいることに強い危惧を覚える。
  • 「既存のメディアにとらわれない新規事業の創出など、デジタル・ネット時代に対応した新たなビジネスモデルの構築に向けた取組を支援する。」とあるが、放送局側には旧来のビジネスモデルに囚われた新たなビジネスモデルを阻害する動きが多い(録画ネット事件等)。一方司法ではカラオケ法理の安易な適用から脱却し、公平な視点で新しいビジネスの勃興を支持する動きも出てきている(ロクラク事件)。今後は適用される法を公平なものとするため、法律の抜本的改正や新しい枠組みの導入など、知的財産戦略本部の強いリーダーシップの発揮を期待する。

Ⅰ-2-(1).海外展開を促進する環境を整備する(p87)

  • 各国間の著作権に対する規制強化の動き中で、我が国が積極的に海外に対する規制緩和を働き掛けるような動きは見られず、むしろ諸外国で行なわれた規制政策と同調し、強化する動きが見られる(著作権期間の延長等)のは遺憾である。我が国のコンテンツ頒布のため諸外国へのロビーイングを積極的に展開することまで視野に入れた骨太な施策を検討して欲しい。
  • 児童ポルノ法に関連して、被害児童が存在しない芸術的表現や、マンガ・アニメなどについてまでも過剰な規制を求める動きがある。日本は諸外国と比べても児童への性的虐待が圧倒的に少なく、また社会的・文化的背景も欧米とは異なることを考慮し、児童保護の観点は重視しつつも、表現活動へのブレーキとならないよう配慮する必要がある。

Ⅰ-3-(1).コンテンツの流通を拡大する法制度や契約ルールを整備する(p90)

  • 「コンテンツの流通促進」「利用と保護のバランスに留意」「技術革新のメリット・利便性を国民が最大限に享受できるようにする」との観点が述べられているが、これまでの取り組みは完全にユーザー不在であり、ダビング10の導入やエルマークといった取組については、ユーザー側からすればなんら評価に値しない。これらをもって「利用と保護のバランスに留意」と主張することは、ユーザー不在の制度設計の推進であるといわざるを得ない。今後、「デジタル・コンテンツ利用促進協議会」の試案や、「コンテンツ学会」のネット利用調整制度といった試策を参考に、早期に具体的かつ抜本的な施策の検討を求める。

Ⅰ-3-(2).市場の透明性を確保し、取引機会を拡大する(p93)

  • 「4弾力的な価格設定など事業者による柔軟なビジネス展開を奨励する」において「消費者利益の向上を図る観点から、事業者による書籍・雑誌・音楽用CD等における非再販品の発行流通の拡大及び価格設定の多様化に向けた取組を奨励し、その実績を公表する。」とあるが、なんら取組実績が見られない。この施策に対する早急な措置を求める。

Ⅰ-3-(4).国立国会図書館のデジタルアーカイブ化と図書館資料の利用をすすめる(p95)

  • デジタル化に関してもなんら具体的取組実績は見られず、むしろ諸外国に先行されているのが実情である(Google Book Search 等)。知的財産戦略本部の強いリーダーシップの発揮を期待する。

Ⅰ-4.世界中のクリエーターの目標となり得る創作環境を整備する(p95~99)

  • コンテンツ創作活動を支える環境整備に向けた取組、ならびに人材育成等に関する取組については、一定の評価に値する。
  • しかし、「(2)コンテンツの創作を支える技術開発を促進する」「(3)一億総クリエーター時代に対応した創作活動を支援する」といった施策については、具体的な議論や方向性が見えておらず、ユーザー自身が新たなクリエーターとなる新しい創作環境時代に追いついた対応が出来ていない。この点について、抜本的な環境整備や法改正等、知的財産戦略本部の強いリーダーシップの発揮を期待する。

第5章 人材の育成と国民意識の向上(p109~118)

  • 知的財産施策ならびに人材教育にあたっては、知的財産戦略推進をトータルで推進する強力な機構が必要である。私的録音録画補償金問題の議論やダビング10導入の議論で見られたような、総務省、文化庁、経産省などの諸省庁が各々のアプローチから知的財産に関する問題を取り扱うことによる弊害を防ぐ意味でも、現体制や法体系の抜本的な見直しも視野に入れた取組を期待する。
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