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プレスリリース

文化庁文化審議会法制・基本問題小委員会で静止画ダウンロード規制に関して意見を述べました

MIAUは、2018年11月9日(金)に開催された文化庁第18期文化審議会法制・基本問題小委員会(第4回)で静止画ダウンロード規制についてヒアリングを受け、意見を述べました。

内容は以下の通りです。


平成30年11月7日

一般社団法人インターネットユーザー協会

静止画ダウンロード規制への考え方

当会は静止画ダウンロードの違法化に反対する。理由は下記のとおりである。

まず、静止画ダウンロードに関する規制を考えるならば、その議論の前提となる立法事実を整理する必要がある。「漫画村」に代表される大規模な海賊版サイトが社会的な問題となり、これに如何に対応するかという議論であったことは記憶に新しい。しかし、静止画のダウンロードを違法化することは、手法として誤りである。

問題となっているサイトはブラウザを使って画像を表示させているに過ぎず、閲覧者は「法的な意味でのダウンロード行為」を行っていない。つまり大規模海賊漫画サイトへの対応のために静止画ダウンロードを違法化することは効果がなく、不必要で誤った法規制である。大規模海賊漫画サイトの撲滅には、発信者情報開示請求などを通じたサイト運営者の訴追や、サイト運営の広告収入などを絶つアプローチを尽くすのが、緊急避難の法理を考えても合理性ある対応である。

静止画ダウンロードの違法化は、海賊版サイト対策の選択肢の一つではありえるが、発端となった海賊版サイトに適用できないのでは、対策の意味がない。違法なコンテンツ流通への対抗策を議論する場合、多くのステークホルダー間で「何が違法でどう法執行するか」を明確に共有し、範囲をその点にした上で議論をする必要があるはずだ。「念のため網をかけておく」という姿勢では、消費者や他のステークホルダーの同意を得られないだろう。

静止画ダウンロードの規制は、(1)定義の困難がある、(2)実効性が疑わしい、(3)利用者の安心・安全を脅かす可能性がある。以下はこの3点について示唆に述べる。

(1)定義の困難性

静止画のダウンロードを違法化するにあたってはまず「静止画」の厳密な定義が求められるが、相当に困難である。例えば以下のような問題点が考えられる。

  1. あらゆる静止画のダウンロードを対象とするのか。つまり、写真やイラストや動画のキャプチャ、スクリーンショットなども対象とするのか。それとも、マンガのように複数の画像のレイアウトが組み合わされ固定化され物語を伝達するような画像表現に限定するのか。
  2. 著作権侵害の非親告罪化の議論の際にあったように、作品のすべてを含んだデッドコピーに限定するのか。それとも一部を切り取った場合も含むのか。単行本、各エピソード、ページ、コマ、コマの一部などで多様に切り取ってデッドコピーすることが可能なマンガ作品における「マンガのデッドコピー」はどのように定義されるのか。
  3. 絵本や絵物語はどうなるのか。あるいはePubやmobiなどの電子書籍ファイルは含むのか。その場合、リフローレイアウトの電子書籍における静止画とは一体何を指すのか。
  4. 罰則がなくとも情を知った状態での静止画のダウンロード行為をすべて違法化するとした場合、例えば無断使用禁止を明確に記載している写真家のウェブサイトから写真をダウンロードし、自身のスマートフォンの壁紙として使用するような零細な行為も違法とし、摘発の対象とするのか。
  5. 1コママンガのセリフを書き替えてSNSに投稿するような行為は現行法でも違法であるはずだが、摘発されたケースはない。広範で一般化している零細な行為を違法としたところで、法執行に現実性はあるのか。

(2)疑わしい実効性

音楽と映像のダウンロード違法化から8年、その刑事罰化から6年が経過した。しかし違法ダウンロードによる摘発事例は一件もないのは何故か。これは法文の瑕疵や法執行の怠慢によるものではない。インターネット上のビジネスモデルが変化し、違法ダウンロードという犯罪を行うメリットが消滅したからである。

この10年間の間に、ユーザーのインターネットの利用の態様は、ダウンロードからストリーミング中心へと変化した。動画の定額制閲覧サービスも定着化し、合法的なビジネスとしてネットを介してコンテンツが配信され、ユーザーがその対価を支払うモデルへと変化した。音楽や映像をダウンロードするまでもなく、ユーザーは便利な正規サービスによって正規コンテンツを楽しめるようになった。同様に、画像・映像制作や事務作業用のプログラム、エンターテインメント向けのゲームプログラムも、無料で試用した上で必要に応じて月々一定額を支払うという利用形態が一般化し、プログラムの違法ダウンロードも、行われる可能性のない行為となった。

こうした技術的変化に対応していない音楽や映像のダウンロードを禁じる法文は、その成立直後からネットの実態と乖離して時代遅れとなり、死文化したのである。ましてや静止画ダウンロードを違法化したところで「漫画村」のようなサイトを止められないのであれば、海賊版対策としての実効性は限りなくゼロに近いと言わざるを得ない。

(3)安心・安全を脅かす恐れ

この10年で登場した新しく画期的で支配的なネットサービスの多くが海外のプラットフォーム企業によって主導されていることは、我が国国民の一人として忸怩たる思いを抱くものである。

マンガやアニメのように日本が世界を牽引することの可能な分野においては、我が国のパブリッシャーが適切に主導して新しいプラットフォームを生み、便利で使いやすいサービスを構築し、クリエイターや利用者たち全員の満足を高めるエコシステムを構築することが望まれる。そのために法整備を考えること自体は大いに賛成である。

しかし現在米国では、デジタルミレニアム著作権法のノーティスアンドテイクダウンルールを悪用し、他者の不都合な言論を弾圧するために用いられているという指摘がある。自身の不都合な記事や写真をまるまるコピーしたウェブサイトを作成し、そのコンテンツの著作権者であることを主張し、ノーティスアンドテイクダウンルールで検索サイトやソーシャルメディアに表示させないようにするという手法1である。

このように本来の著作権保護以外の理由で、言論弾圧や嫌がらせのために著作権を悪用するケースは実際に複数存在2する。静止画ダウンロードが違法化された際にはこのような一般利用者の権利を脅かす例がさらに増えることが懸念される。特にファイルサイズの小さい画像のダウンロードは映画や音楽ファイルよりカジュアルに行われることは間違いなく、例えばアダルトコンテンツを装った振り込め詐欺などは容易に想定できる。そうした詐欺行為対策への啓蒙啓発活動に新たな税金を投じるよりは、そもそも実効性のない立法を避け、犯罪を誘発することのないようにするべきである。

静止画版Lマークの導入も検討されているというが、写真やイラストやマンガなどの静止画による表現行為は日々、大勢の個人が自由に制作するものであり、そうした切磋琢磨が我が国のコンテンツ文化の豊かさを支えていることを忘れてはならない。個人への著作財産権侵害は少額であるから考慮する必要がないなどということは、あってはならないだろう。個人でマンガを制作しネットや冊子で公開する者にまで静止画版Lマークを導入するよう求めるのか。個人のウェブサイトにマークを導入することで、海賊版頒布者に悩むマンガ家には一体どういうコストメリットがあるのか。マンガ作品はそもそもは作家個人の表現であり、出版社はその流通を手助けするという立て付けである。特定の出版社やプラットフォームを通して発表した作品のみに真正性があるかのような表示を行うことを国として推奨するという行為が日本の豊かなコンテンツ表現にどう影響するのか、そういった点まで考慮が行われた上での対応なのか、甚だ疑わしい。

そもそも、現在の海賊版サイトに対して一定の対策をした場合どれくらいのメリットがあるのかについて、具体的に数値化した試算を示すべきであるし、それぞれの効果を検証するなどのステップが踏まれた上で、画像ダウンロードの違法化という議論になるのならば、我が国のコンテンツ産業や文化の環境を一丸となって発展させていくという目的を多くのステイクホルダーで共有できるだろう。しかし現状の議論では「結論ありき」と批判されてしかるべきである。

最後に、静止画ダウンロード規制のようなインターネットの運用全般に係る議論は、インターネットガバナンスそのものにも関わってくる。インターネットガバナンスに係る議論と同様に、本議論もマルチステークホルダープロセスをとり、作家や利用者、ネット事業者などの意見を広く取り入れることは欠かせないと考える。

以上

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  2. 例えば タイ全裸の株式会社DYMが評判の隠蔽に使った7つの手法 – web > SEO SEO辻正浩のブログ https://webweb.hatenablog.com/blog/seo/dym-reputation/ (掲載日:2016/4/21、アクセス:2018/11/07)
    Wantedlyブログ削除問題とクレーム自動処理の問いかけ – 福井健策|コラム | 骨董通り法律事務所 For the Arts https://www.kottolaw.com/column/001525.html (掲載日:2017/9/6、アクセス:2018/11/07)
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