MIAUは、政府の知的財産戦略本部「知的財産推進計画2021」策定に当たっての意見募集に、下記の意見書を提出いたしました。
内容は以下の通りです。
「知的財産推進計画2021」に対する意見
■著作物の保護と利用のバランスを取り戻すためにフェアユース制度の導入を
先般の著作権法の改正により、違法なダウンロードの対象範囲を拡大すること(以下違法ダウンロード対象範囲拡大)、リーチサイトに対する規制(以下リーチサイト規制)、アクセスコントロール回避規制の強化など、著作物の大幅な保護強化策が盛り込まれた。これはインターネットの活用が一般化した我が国の社会において、今回の改正は国民の情報の活用に負担を追加する内容である。またACTAやTPPに批准する際に著作権保護期間の延長、著作権侵害の非親告罪化、そしてアクセスコントロール回避規制など、著作権は文化の振興という本意から外れ、権利者の権利保護強化の方向にのみ拡大し続けてはいないか。
権利保護強化に対して技術を用いた消費者の著作物の利活用を促進する手当はその間なかった。2018年5月改正では「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定」が取り入れられたが、これはどれも産業の変容に対応するものであって、言論の自由を担保し、教育やエンタテインメント、ユーザーによる技術検証・改善(Freedom of Tinker:いじる自由)に資するものではなかった。
今回の著作権法の改正案、そしてこれまでの我が国の著作権法制度をめぐる経過は、国民の情報や著作物の利活用を制限し、さらには萎縮させる内容が一方的に導入され続けてきた。
著作権法は、権利を守りつつ利用を促進することで文化を発展させるものである。国民の啓蒙という実効性のあやふやな保護強化が改正の主眼になり、かたや国民の知る権利や表現の自由の実現手段であるインターネット上の情報収集・発表等への萎縮が懸念される現状は、法改正として本末転倒であり、日本の知の競争力を削いでいるといっても過言ではない。国民の権利や自由を担保するように、例えば米国型フェアユースの4要件を範とした、柔軟かつ包括的な権利制限規定を導入するなど、権利の保護と利用のバランスを取り戻す施策が求められる。
■柔軟な権利制限規定について
知的財産推進会議 第2回構想委員会にて行われた「知的財産推進計画2021に向けた検討」において、著作権法の権利制限規定に係る議論に対し「柔軟な権利制限規定が導入された背景には、これまでの立法の手法において、著作物の利用実態が急速に変わり得るという事実を考慮に入れた制度設計が必ずしも十分には行われていなかった面があるとの認識」との記載がある。このような指摘が知的財産推進会議内で共有されている点は評価できる。
さらに「著作権法における柔軟な権利制限規定の導入の際、専門性、迅速性、柔軟性等の観点から、ソフトローの活用が適切な場合があるとの議論がなされている」との記載もある。確かにソフトローを用いての著作物の利活用を進める手法もある。昨今では、コンテンツホルダーが自らガイドラインを示すようになった事例も増え、評価の声も高まっている。産業振興策およびCGMを推進するという意味で知的財産推進会議が推進する動きとしてネガティブなものではない。
ただし著作権は言論の自由、そして情報技術を用いた教育やエンタテインメントの拡張、そして技術検証や改善などのオープンイノベーションとも表裏一体であることに引き続き注意する必要がある。利用者の保護に一定の法的な後ろ盾は必要であり、ソフトローではその保護には足りない。米国型フェアユースを念頭に置いた権利制限規定を創設し、その理念の上でガイドラインを示すような、ハードローとソフトローを組み合わせた形で柔軟な権利制限規定の拡張を行っていくことが必要である。
デジタル化やネットワーク化による著作物の利用について、その多様化は今に始まったものではない。ただし新型コロナウイルスの感染拡大に伴う社会変化は、その多様化を加速したというのは間違いない。自宅のPCからオフィスのPCにVPNを用いてアクセスすることによるテレワークや遠隔授業は一般的なものとなった。入院や隔離措置によって自宅のメディアサーバにアクセスして治療期間を過ごすようなケースも考えられる。対して現在の規定はメディア変換やタイムシフト・プレイスシフト、アーカイビングなどの消費者が求めるニーズに応えるものとなっていない。リアルに対する強い制約から、リアルからオンラインへのシフトが生じており、この流れは国として推進していくべきものである。
■クリエイターへの適切な対価還元に関する議論について
クリエイターへの対価の還元については、常にユーザー側の利便性との関係で論じる必要がある。ユーザーの複製の自由と対価の還元は密接に関係する、いわば車の両輪だからだ。現在文化審議会で行われているクリエイターへの適切な対価の還元の議論では「複製はすなわち不利益」という形で議論が進んでいるが、すべての複製に不利益が伴うものではない。仮に不利益があっても、補償までの必要がないものも存在する。そもそも権利制限は権利者の犠牲において行われるのではなく、文化の発展産業の発達に沿う範囲で行われるものである。ついてはメディア変換やタイムシフト・プレイスシフト、アーカイビングなどを目的とした複製は、対価還元の対象から外すことを求める。
またクリエイターへの対価還元における議論においては、ユーザーの利便性を制限するDRMとのバランスという視点を盛り込んで行われることを引き続き要望する。これは保護と利用のバランスのとれた新しい制度設計につながる。
弊団体としては、新しいクリエイターへの還元措置として、契約モデルによる対価還元と、補償金制度のクリエイター育成基金化を提案している。現状の補償金をベースとしたモデルに拘泥せず、新しい制度のあり方の議論を進めていくべきである。
■著作権侵害を理由としたサイトブロッキングについて
【要旨】
著作権侵害を理由としたサイトブロッキングについては行うべきでない。サイトブロッキングは通信全般を監視し、なんらかのアルゴリズムで不適当と判断された通信を遮断するというもので、憲法で保障されている「表現の自由」「通信の秘密」を侵す事実上の検閲行為にあたる。
【本文】
著作権侵害を理由としたサイトブロッキングについては行うべきでない。違法アップロードサイトが社会問題となり、その対策がさまざまなところで議論され、その対応の手法としてサイトブロッキングが挙げられることがある。対して当会はこれまでも知的財産推進計画策定に当たっての意見募集において、著作権侵害を理由としたサイトブロッキングについて意見を提出してきた。出版社などが中心となって海賊版サイトを摘発・削除するための取り組みを進めていることは理解しているが、サイトブロッキングは憲法で保障されている「表現の自由」「通信の秘密」を侵す事実上の検閲行為に他ならない。2021年も引き続き下記の内容を求め、拙速な議論とならないように注意する必要がある。
[著作権侵害を理由としたサイトブロッキングをすべきでない理由]
サイトブロッキングは通信全般を監視し、なんらかのアルゴリズムで不適当と判断された通信を遮断するというもので、憲法で保障されている「表現の自由」「通信の秘密」を侵す事実上の検閲行為にあたる。そしてこの件は2010年の児童ポルノサイトブロッキングに関する議論において通信の秘密と違法性阻却事由の観点から大きく議論され、著作権侵害についてのサイトブロッキングは不適当であるという結論がすでに出されている。ついては著作権侵害を理由としたサイトブロッキングは憲法で保障された人権を侵害するものであるから、決して導入されるべきではない。
実際にイギリスやフランスなどの諸外国で著作権侵害を理由としたサイトブロッキングは行われていることは事実だが、効果としては低いとされている。ブロッキングを行ったとしても、海賊版サイトはドメインやサーバをすぐに変えてしまうため、ブロックの判決が出た数日後には使えるようになっていることが多い。これはサイトブロッキングは単にアクセスを遮断して見えなくするだけであり、海賊版サイト自体は厳然として存在するのであるから当然である。なお、児童ポルノと同様に裁判所を通さずに行政手続きでサイトブロッキングを行えば十分なスピードでブロッキングができるという主張もあるが、これは「表現の自由」への影響が大きく、諸外国でも採用されていないことに留意すべきである。
また、サイトブロッキングが行われている地域では、接続経路を偽装するツールやサービスが発達するなど、サイトブロッキングを回避する手法が充実してきている。サイトブロッキングの導入により、こうした匿名化ツールやサービスにユーザーを誘導してしまえば、ブロッキングが容易に回避されるばかりか、海賊版サイトの大胆な利用を誘発し、事態の悪化を招く恐れもある。
ISPに負担をかけるだけで、を侵害するにもかかわらず効果の少ないサイトブロッキングを行うよりも、おおもとの海賊版サイトを摘発・削除するための取り組みに力を注ぐべきだ。
■アクセス警告方式について
【要旨】
著作権侵害を理由としたウェブサイトアクセスへの警告表示は行うべきでない。アクセス警告方式はエンドツーエンド原則に反する。また技術的には第三者が通信の中身を確認する点でサイトブロッキングと全く同様に通信の秘密を侵す行為である。現状でもスマートフォンには消費者の同意のもとでフィルタリングをかけることができ、必要なくなれば外すことができる環境が整備されている。
【本文】
著作権侵害を理由としたウェブサイトアクセスへの警告表示は行うべきでない。インターネットは自律分散協調により維持されてきたシステムであることに加え、そのネットワークをシンプルに保つため、通信の操作はその終端で行う「エンドツーエンド原則」によって成り立っている。あるべきネットワークの姿を取り上げるのであれば、エンドツーエンド原則も合わせて考慮すべきである。そしてネットワークレベルで警告画面を出す「アクセス警告方式」はエンドツーエンド原則に反する。
またアクセス警告方式の実施の前提についてより議論することが必要だ。アクセス警告方式については既に多くの法律的、技術的な批判に晒されたウェブサイトブロッキングの議論を前提とすべきだ。なぜなら、アクセス警告方式はサイトへのアクセスが可能かどうかという点においてサイトブロッキングとは表面上異なるものの、技術的には第三者が通信の中身を確認する点でサイトブロッキングと全く同様に通信の秘密を侵す行為であるからだ。通信の秘密が保障するのは秘密そのものであり、アクセスの保障はその附随的効果に過ぎないため、前提としてサイトブロッキングの議論において表出した種々の問題点をそのまま引き継ぐものと考える。
次にユーザによる海賊版コンテンツのダウンロード行為が違法か違法でないかについては、まず違法でないコンテンツについてはアクセス警告方式で通信の秘密を侵す理由がない。一方、違法なコンテンツについてはアクセス警告方式で通信の秘密を侵す理由があるとする考えも想定され得るが、アクセス先に違法コンテンツがあるかどうかはアクセスしてみて初めて判明することである。つまりアクセス先が違法か違法でないかは通信の秘密を侵さずに判断することができない。
なお、昨今問題とされるユースケースのほとんどはダウンロード行為が伴わないため、目的効果の観点からダウンロード行為が違法か違法でないかをアクセス警告方式の実施の前提の論点の俎上に載せることは不適切であり、アクセス警告方式の実施の前提として論点にあげることは必要ない。
アクセス警告方式の導入に関する議論ではオプトアウトの原則が挙げられているが、現状でもスマートフォンには消費者の同意のもとでフィルタリングをかけることができ、必要なくなれば外すことができる環境が整備されている。「どのようなサイトをフィルタリングするか」という点についてはEMA(モバイルコンテンツ審査・運用監視機構)による認定が終了している今、客観性をどのように持たせるかについて議論せねばならないが、ユーザーによるオプトアウトが確保されており、エンドツーエンド原則に則った解決策のひとつだと考える。
■同時配信、アーカイブ配信等の権利処理について
文化庁の文化審議会 著作権分科会 放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関するワーキングチームでの議論によれば、放送番組のインターネット同時配信の対象サービスとして、同時配信(サイマル配信)、追っかけ配信、一定期間の見逃し配信が基本として議論され、その期間としては毎週放送の場合は1週間(月一放送の場合は1ヶ月)が念頭とされている。リアルタイム配信と次回放送までの見逃し配信が検討のベースであり、もちろん見逃し期間後のサブスクリプションサービスなどを使った展開も見据えているのだろうが、配信期間を前提とした議論は一時的な問題解決にしかならない。放送番組のインターネット同時配信に関する議論を急ぎ進める必要があったことは理解しており、議論の端緒をつけたところは評価できる。ただし視聴者が長く放送番組にオンラインで触れられるよう、配信期間を前提としない放送番組の配信権利処理モデルまで議論するよう、知的財産推進計画として一歩踏み込むべきである。
また現在の放送番組のインターネット同時配信に係る議論は、あくまでも現在まさに行われている放送番組に関する施策であり、過去の放送番組についても、著作権保護期間の満了を待たずともデジタルアーカイブとしてそれらの番組を見られるようにするような議論も合わせて知的財産推進計画として進めていくべきである。
特に放送番組は著作権に限らないさまざまな権利処理を行う必要があり、ネット配信・アーカイブ配信を前提とした契約も行われていないため、すべての権利を明確にクリアしなければアーカイブとして配信することが難しい。しかしアーカイブは、蓄積しても利用されなければただの死蔵であり、利用開始が長引けばそれだけ資産価値を減少させ続ける結果となる。放送番組のアーカイブ利活用については、最終的には国民の直接視聴に繋がることを睨みつつも、史料としての価値を優先する形で、研究および教育利用などの利用目的を限定したり、ナショナルアーカイブサイトでの視聴に限定したりなどの現実的な制限の上でオプトアウトで始めたらどうか。
■オープンデータのさらなる推進を
政府はオープンデータの推進を進めており、官民データ活用推進基本計画の下、政府のだけでなく自治体単位でも取組を進めてきた。特に自治体については2020年度末までに全ての自治体においてオープンデータの提供を開始することを目標に掲げている。しかし実際には実施率は50%程度にとどまっており、大幅な未達成となる見込みである。規模の大小に関わらず全ての地方自治体がオープンデータに取り組むことは我が国における知的財産のコモンズ形成において重要な要件であるため、特に小規模な地方自治体において取組が進まない理由や県ごとの偏りについて原因を分析し、政策的支援等を行うべきである。
新型コロナウイルスに関する情報提供においては、官民が協力してオープンデータを活用した情報ダッシュボードが開発され、国民の情報収集に役立ったことは一つの大きな成果だ。また新型コロナウイルス感染症の地域経済への影響を官民ビッグデータの活用により可視化するために内閣府が開発したV-RESASはスマートフォンアプリやクレジットカード、検索サイト、会計ソフトなど民間企業が取得しているデータを統計化して政府が利用するBtoGのデータ活用事例として画期的な取組である。しかし携帯電話の位置情報などは個人のプライバシー性が高いため、統計化に不安を覚える国民がいてもおかしくない。感染症対策や災害対応などで政府と民間が連携した官民データ活用が効果を発揮するのは間違いないが、少なくとも官民連携を行う際には、データを利用する目的や期間、管理体制、撤退条件などを取り決め、それらを公表し、成果を報告するなど透明性を高めていくことが求められる。
そしてオープンデータを地方自治体や独立行政法人、交通機関など公共性の高い民間事業者、社会全体へと広げていく動きはいまだ弱い。またより制約の少ないパブリックドメインのコンテンツを増やすことには政府のオープンデータ政策は取り組んでいない。米国連邦政府のように、公開されたコンテンツは原則パブリックドメインとし、難しい場合にはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスや政府標準利用規約に代表されるオープンライセンスのもとで公開するように知的財産計画として方針を示すべきだ。また国費を使って開発されたソフトウェアや研究論文のオープンライセンスでの公開など、米国での先進事例についても知的財産推進計画として視野に入れるべきだ。
■著作権を報酬請求権として取り扱うべき
わが国では、著作権の許諾権としての性格が強く意識されすぎている。著作権者に強力な許諾権があることは、企業がコンテンツを活かした新規事業に乗り出す上で不透明な「著作権リスク」をもたらし、企業活動を萎縮させる一方、ユーザーのコンテンツ利活用における利便性も損ねている。かつ、学界では、強力な許諾権があるからといって必ずしも著作権者に代価がもたらされるわけではないとする研究が有力である。このように、現状の許諾権としての著作権は、ユーザーの利便性と産業の発展を無意味に阻害していると言わざるを得ない。そこで、より高度なコンテンツ活用を目指すべく、著作権を報酬請求権として扱うようにシフトしていくべきであろう。
近年はICT技術やインターネットの普及に伴い、ユーザー=クリエイターという関係が強く見られるようになった。ユーザーのコンテンツ利活用における利便性を高めることは、新たに多様なコンテンツを生み出すこととなり、結果的にコンテンツホルダーにとっても利益になる。ひいては経済活動の活性化をもたらし、日本経済にも貢献することになる。なお、ハーバード大学では著作権の報酬請求権化についての研究が進んでおり、参考になる。日本でも、例えば著作権法上のレベルでは許諾権のままでも、産業界の自主的な取り組みとして、合理的な範囲で報酬請求権として運用することが可能である。産業界にイノベーションをもたらし、経済を拡大するために、政府は報酬請求権としての可能性の啓発に取り組むべきである。
■「プロライツ」から「プロイノベーション」へ
今後の経済政策としてふさわしいのは、権利を囲い込み、墨守するだけの「プロライツ」ではない。権利を活かしてリターンを最大化する「プロイノベーション」の形を目指すべきである。安直なプロライツ(プロパテント・プロコピーライト)は結果としてイノベーションや競争を阻害し、ひいてはユーザーの利便性が向上する機会を損なう。ゆえに、コンテンツ産業戦略全般において、プロイノベーションという方針を明記し、それに従った具体策を策定すべきである。これからの時代のコンテンツの利用や創作は、それを鑑賞するためのイノベーションと不可分である。ユーザーの利便性を高めてコンテンツを活用していくためには、イノベーションを阻害しないことに最大限留意すべきである。
■政策立案プロセスへのユーザー代表の参加とエビデンスベースの議論を
知財戦略としての政策目的を促進するためには、公的な議論にユーザー代表が参加する必要がある。業界内やコンテンツホルダーとの間の短期的な利害対立に対する政府の調整能力は、既に限界にきている。一方、ICT産業やコンテンツ産業の一部においては、ユーザーの利便性への要求が産業を成長させてきた。特に近年では、ユーザー生成メディアが莫大な利益を生み、あらゆるコンシューマビジネスがこれを取り入れつつあることは周知のとおりである。このようにユーザーの利便性を高めることが産業界のイノベーションを産み、コンテンツの利用の拡大をもたらすことに鑑みれば、技術やコンテンツの利用態様に明るいユーザーの代表が知財政策で強く発言していくべきである。
「知的財産推進計画2021に向けた検討課題内」にて引用されている「GOVERNANCE INNOVATION Society5.0 の実現に向けた法とアーキテクチャのリ・デザイン」では「企業がアーキテクチャの設計又はコードの記述において参照できるようなガイドラインや標準を、マルチステークホルダーの関与によって策定」とあるが、ガイドライン作成だけでなく、そのベースとなる法規制策定の議論でもマルチステークホルダープロセスを実施すべきである。
またあわせてエビデンスベースの政策立案議論が行われることを強く希望する。海賊版サイトブロッキングの議論においては、海賊版サイトがもたらす商業上の悪影響について恣意的な統計による議論が行われていたのではという疑義がある。そのような数値をベースに行われたウェブサイトブロッキングに関する政策意思決定過程に対しての反省と、その失敗を活かした今後の改革が行われるべきだ。2021年2月に発表された公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所の統計(https://www.ajpea.or.jp/book/2-2102/index.html )によれば、コミック市場は少なくともこの5年間一貫した拡大傾向にあり、特に電子書籍市場の大幅な売上増が示されていることも付言したい。
■アクセスコントロール回避規制の廃止を
無条件のアクセスコントロール回避規制は、ユーザーによるコンテンツのアーカイブを不可能とし、国民の正当なコンテンツ利活用を妨げる。またアクセスコントロール回避規制はわが国のICT技術の発展を不当に妨げ、ひいては日本製品の競争力をも損なっており、それに対する手当は一切なされていない。
アクセスコントロール回避規制によって、権利者に不当な損害を与えない「視聴のための複製」が不可能となっている状況は看過できない。また本来著作権法で認められている範囲での映像の引用が不可能となっており、それによって技術批評や映像に関する教育が難しくなっている。また自身の使う機器やソフトウェアの安全性チェックや、イノベーションを促進する「いじる自由」(freedom of tinker)を害している現状がある。また技術の互換性や相互運用性を担保するうえでもアクセスコントロールの回避が必要となる場合がある。
近年の技術進歩は急速であり、今後自動車や家電など、従来はそう見なされていなかった機器でもコンピュータ化、ネットワーク化、ブラックボックス化が進む可能性がある。また技術革新に伴って、コンテンツの新たな用途や利用形態が開拓されることもある。これらに伴い、アクセスコントロール回避の新たな形態が求められるようになる可能性は非常に高いと考えられる。
特にコンテンツの視聴のためであっても、オープンソースソフトウェアの利用を制限する現状の制度は、コンテンツ利用促進の観点からも負の影響が大きく、早急に手当が必要だ。またコンテンツの批評や引用など、著作権法で認められた用途においても著作物を利用することができない状況を解決する必要がある。ユーザーが購入したコンテンツを長く、そしてオープンソースソフトウェアによっても利用できるように規制のあり方を再度検討すべきであり、柔軟かつ定期的に適用除外規定を追加できるような仕組みを考慮すべきである。さらにアクセスコントロール回避行為自体を違法とすることは、上記で述べてきた行為を現状行っている人全てを違法状態に置くこととなり、実効性がない。
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