2022.09.06
文化庁「著作権法施行令の一部を改正する政令案」(ブルーレイディスクレコーダー・ディスクを私的録画補償金制度の政令指定機器へ追加)への意見草案を公開します
2022/9/21追記:下記草案通り文化庁に意見を送付いたしました。
参考:「著作権法施行令の一部を改正する政令案」に関する意見募集の実施について|e-Govパブリック・コメント
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185001258&Mode=0
著作権法施行令の一部を改正する政令案への意見(草案)
著作権法施行令の一部を改正する政令案(著作権法施行令第1条第2項における、アナログデジタル変換を伴わないブルーレイディスクレコーダーおよびブルーレイディスクの追加指定)に関して、強く反対する。意見は下記の通り。
1.DRMによって著作権保護されている機器とメディアを私的録画補償金の対象に指定することは不適当である
私的録画補償金制度(以下単に補償金制度とする)は著作権法第30条の元で、デジタル録画機による合法に行われる私的複製(テレビ放送の録画)にて生じる著作権者に対する「不当な不利益」を補償することを目的とした制度である。
また補償金制度は、著作権侵害に対する補償を目的とした制度ではない。テレビ番組が権利者の許諾なく動画共有サイト等にアップロード・公衆送信される事案(いわゆる海賊行為)と、補償金制度には関係がない。これは補償金制度を議論した文化庁 文化審議会「著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会」(以下小委員会とする)などにおいて確認されている。
2011年にアナログ放送は停波され、デジタル放送にはB-CASおよびA-CASによる著作権保護技術(DRM)が適用されている。またデジタル放送をデジタル信号のまま録画するブルーレイディスクレコーダーは、「ダビング10」のもとで技術的な著作権保護が行われている。つまり現在テレビ放送をブルーレイディスクに録画する機器は、DRMの下で制限された範囲でしか複製を行うことができない。
デジタル放送専用レコーダーの補償金を巡る、いわゆる「SARVH対東芝録画補償金事件」で2012年に機器メーカーが勝訴した後、デジタル放送専用レコーダー等からの補償金はこの10年間近くの間に徴収されておらず、またデジタル放送に対する著作権保護技術は安定して機能している。ゆえにブルーレイディスクレコーダーやブルーレイディスクに起因した、著作権者の利益を不当に損なう複製は行われていない。
ゆえにブルーレイディスクレコーダーやブルーレイディスクなど、著作権保護技術が適用されている機器・媒体については、著作権者の利益を不当に損なう複製が行なわれることはないことから、補償金制度の対象とはなり得ず、政令指定機器に追加すべきでない。
2.ブルーレイディスクレコーダーを政令指定することに関し、関係者間の合意が形成されておらず、関係者間に合意のない政令指定機器に追加することは補償金制度の秩序を損なう
補償金制度については「クリエーターへの適切な対価還元」という観点から、小委員会において長く議論がなされてきた。
補償金制度については当事者間の意見の隔たりが大きく、本政令の改正案の内容を含めて小委員会での結論は定まっておらず、意見の隔たりの大きい当事者間での検討を再開する前に、関係府省庁間による議論の整理を確認するために私的目的の録音・録画に係る実態を把握する調査が実施されたと承知している。
対して本政令の改正案について、関係当事者間の合意は現状では得られていない。当協会は小委員会にて補償金制度の議論に、補償金の支払い義務者である消費者サイドの委員として参加したが、本意見募集の段階での政令の改正案には合意できない。補償金の支払いに協力する機器メーカーの団体であるJEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)も強く反対する旨声明を発表している。
さらに言えば、知的財産推進計画2022によれば、本政令の改正にかかる担当省庁としては文部科学省だけでなく、内閣府や総務省、経済産業省が検討に加わることとなっているが、関係府省庁間の議論の整理に関する記録が示されるべきである。文化庁においては、どのような経緯で政策決定が行われたのかを示すことが求められている。
さらに本政令変更案は、知的財産推進計画2022に示されている「新たな対価還元策が実現されるまでの過渡的な措置」を前提としているが、その過渡的な期間がいつまでか、あるいはどのような状況を指しているのかも示されていない。
コンテンツのさまざまな視聴様態があるなか、例えばデジタルオーディオプレーヤーやスマートフォン、汎用的な記録媒体(HDDやSSD、SDカードなど)やサーバ機器、クラウドサービスなども小委員会などでも議論されてきたが、このような議論のある機器・媒体を、今回のように補償金制度にかかわる関係者間の協議や合意、そして小委員会などでの結論を待たずに、そして過渡期間の定めなどもない状況で、調査の結果と関係府省庁間間の議論のみにおいて政令指定機器を追加することは、政令指定機器の無制限な拡張につながる。現在文化審議会で議論されている「DX時代に対応したコンテンツの権利保護、適切な対価還元方策」をオーバーライドすることも可能となる。
補償金制度は関係者間の合意と協力を前提としたもので、『極めてもろい「ガラス細工」のような制度』とも例えられる。つまり「適切な権利保護と利⽤のバランス」という著作権法制度の基本理念を念頭に、これまで専門家が長い時間をかけて議論をしてきた小委員会での議論、そして関係者の協力を得られるような結論なしに、補償金制度は成立し得ない。つまり本政令変更案を議題とした小委員会での議論がなく、関係者間の合意にも至っていない本政令案には反対である。
仮にそして本意見募集を受けて当事者間での検討を再開するのであれば、権利者・メーカー・消費者のバランスのとれた、マルチステークホルダープロセスによって議論を進めるべきである。
3.ブルーレイディスクレコーダーの市場は縮小し続けており、消費者の私的複製行為は消滅傾向にあるなかでの政令指定には意義がない
JEITAが公開している統計資料によれば、ブルーレイディスクレコーダーの出荷台数および出荷金額は減少が続いている。これは消費者がテレビ録画、すなわち複製に頼ることなく、様々なコンテンツをテレビ放送以外から享受できるようになり、需要が低下したことに他ならない。
また本政令の改正案の根拠となっている「私的録音録画に関する実態調査報告書」を参照すれば、ブルーレイディスクレコーダーを含むデジタル放送レコーダーで放送を録画視聴するユーザーの目的を見れば、その多くがタイムシフト視聴や時短視聴などを目的としており、視聴回数は1回、そして視聴後には録画データは消去されていることがうかがえる。
そしてこのようなテレビ視聴の形態は「TVer」などに代表される配信サービスがより普及することで、ブルーレイディスクレコーダーなどでのテレビ放送を私的複製するニーズはさらに減ることは間違いない。
やがて消滅するであろうテレビ放送の私的複製にかかる機器を、今から録画補償金制度へ追加しても、数年で実質ゼロに近くなることは明らかであり、現時点で政令指定する意義が見いだせない。政令指定機器を増やすより、テレビ放送の配信サービスをより円滑化し、加速化することで新たなクリエーターへの対価還元方策を進めることが、我が国が進めるデジタル改革に資するのではないか。
4.廃止も含めた議論も進んでおらず、現行制度に変わる方策も存在しない
2021年10月20日付けで文化庁著作権課から出された「私的録音録画補償金制度の今後のあり方について」という文書によれば、『今回の対象機器の指定が「過渡的な措置」であることを踏まえ、適切な新たな対価還元策の実現と合わせて廃止する方向で議論をとりまとめたい』とある。
この文書では、今回の政令指定と、現行制度の廃止および新たな対価還元策策定が、バーターであるかのように読める。またこれを「令和4年度に必要な手続きを進める方向」ともある。
しかしながら現時点において、現行制度を廃止する議論の場も存在せず、新たな対価還元策の草案も示されていない。このような状況において、今回の政令指定のみを容認することはできない。
5.すでにブルーレイディスクの補償金にかかる業界団体も解散しており、実質的にディスクが関係しない録画機器への拡大が懸念される
旧来、記録メディアに対する補償金はメディアの補償金は、日本記録メディア工業会がとりまとめて納付していたが、同団体は2013年3月に解散している。またSARVH(一般社団法人私的録画補償金管理協会)も2015年3月に解散し、現在録画補償金を取り扱う指定管理団体は存在していない。このような環境整備が行なわれないまま政令指定を行なったところで、補償金制度が正常に機能しないのは明らかである。
ブルーレイディスクへの徴収が不可能であるならば、今回の指定は実質的にHDDレコーダーに対する指定と変わらないことになる。関係者間の合意も不要で、文化庁の判断のみで対象機器の政令指定ができることが常態化すれば、今後ブルーレイディスクレコーダー以外のテレビ録画視聴にかかる商品やサービスも無制限に拡大する懸念があり、消費者としてはこのような合意なき政令指定は看過できない。
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