MIAUはこの度、デジタル・コンテンツ利用促進協議会の『会長・副会長試案』を受け、同協議会宛に以下の内容を意見として送付しましたことをお知らせいたします。
意見の概要
- 現行著作権法スキームの欠陥を埋めていこうとする試みには大いに賛同する。
- 原権利者の別段の意思表示に関するメルクマールについては、特別多数の賛成が望ましい。
- コンテンツID管理については、オープン性を確保したデータベースの運用を図るべきである。
- 対象コンテンツの権利侵害に関する免責には賛同するが、善意無重過失の推定に関しては仔細な根拠を明示すべきである。
- 合理的な方法に基づいて算定された公正な価格をもって申込みを行った者に対する応諾義務はあるべきだが、不調に終わった場合の裁判所による価格決定条項等を盛り込むべきである。
- フェア・ユース規定を盛り込む点は大いに賛成するが、その要件に関して検討がなされていない段階では判断が付きかねる。
意見の全文
項目1.「本試案の背景・目的と骨子」について
従来、コンテンツの権利者を保護し、その一方でコンテンツの流通や利用を促進するという、ある側面では相反するはずの法的役割は、著作権が一手に引き受けてきました。しかし、特にインターネット上を駆け巡るデジタルコンテンツの扱いに関しては、現行の著作権制度は必ずしもうまく機能しておらず、所々でほころびが生じてしまっているという点については、私たちも認識を同じくしています。
また、インターネットをはじめとする近年の技術革新とその一般への普及は、著作権における権利保護と流通・利用促進のデリケートなバランスを突き崩し、結果として権利者とユーザーの間に大きな溝を生むことになりましたが、これは、コンテンツ立国を目指す我が国の今後にとっても、大変好ましくない事態です。この点に関する認識も、本試案に提示されている通りであると考えます。
そうした事態に対して日本の社会状況を鑑み、個別具体的な契約や労使交渉等ではなく、法制度を整えることによって、現行著作権法スキームの欠陥を埋めていこうとする試みには大いに賛同するところです。
項目2.「デジタル・コンテンツの利用に関する権利の集中化」について
5頁にあります権利集中化要件の原権利者の別段の意思表示に関するメルクマールについては、他の法令でもあげやすく、かつ、不利益を受ける者に対する配慮もある程度なされていると主張しうる特別多数の賛成が望ましいと思われます。
「一人でも別段の意思表示なら特別法適用なし」または「すべての原権利者」としてしまうと、本試案の趣旨を空文化すると同義になってしまうでしょう。印象としてですが、過半数は若干乱暴な気がしますし、「いずれかの主要な原権利者とすること」とするのは要件が曖昧であるとの批判を免れないでしょう。
項目3.「対象コンテンツの権利情報の明確化及びその効果」について
6頁においては、権利情報の明確化につき、法定事業者が権利情報を一定の機関(以下、試案に従って「コンテンツID管理事業者」と呼ぶ)に登録し、コンテンツID管理事業者は登録した情報を電磁的方法により公示するということが検討されています。
このコンテンツID管理事業者は届出制であることが例示され、少なくとも独占や寡占としない制度設計が想定されているように思われますが、登録された権利情報を集積するデータの仕様やデータベースの運用については特に言及がありません。
私たちはこの点について、データベースのオープン性が保たれるよう、IDの仕様の標準化を行うこと、データベースが相互に連携しあえるよう相互接続性を担保すること等をも、謳うべきであると考えます。
7頁から8頁にかけて示されている、登録された対象コンテンツについて権利侵害について利用者、コンテンツ・ライセンス事業者及び法定事業者が善意・無重過失の場合には、現権利者は差止請求できず、また、人格権等に基づく異議申し立てについても一定の場合は免責されるとの規定については、利用者等のリスク軽減という意味で大変重要な提案であり、大いに賛同したいと思います。
しかし、登録された対象コンテンツについては利用者等の善意・無重過失が推定されると規定することは、一般に表見法理は善意無過失が主流である以上、行き過ぎの感は否めません。無重過失の推定を規定するのであれば、何らかの法的構成や別途の説明が必要とされるのではないでしょうか。
この点について、善意・無重過失推定案について根拠の説明がされていません。この点を明示してからでないと、善意・無重過失推定案と善意・無過失推定案のどちらがよりコンテンツの流通や利用を促進するという趣旨に沿うか判断がつきかねるように思われます。
項目4.「対象コンテンツの適正な利用と原権利者への適正な還元に向けた仕組み」について
8頁の法定事業者が負う義務については、A案において応諾義務を認め、B案においては法的義務でなく経済的合理性に委ねるということが提示されています。
A案においては、著作物の多様性からして「合理的条件」が万人の理解を得られるものにならないのではないかという批判がありえ、B案ですと、そもそも経済的合理性の形成に失敗しているから現在の状態があるのだという批判がありえると思われます。
この2案については判断は難しいものの、デジタル・コンテンツの流通促進という趣旨を貫徹するのであれば、既存の権利者のサボタージュを減らすためにA案に近い形で規定することが望ましいと考えます。その場合、調整が付かなかった場合における裁判所の価格決定条項を付ける等の手当て組み合わせますと、公正な価格決定のプロセスを担保しやすいと考えられます。
項目5.「デジタル・コンテンツの特性に応じたフェア・ユース規定」について
フェア・ユース規定を本試案の提示する特別法において設けることには大いに賛成します。
しかし、一定の要件の下でフェアユースとして認めるべきとしている点は賛同したとしても、その要件に関して検討がなされていない段階では判断が付きかねます。
したがって、デジタル・コンテンツの特性に応じたフェア・ユース規定の詳細が決定した段階で、再度パブリックコメントを募集されることを希望します。
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