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プレスリリース

2023.01.18

文化庁「文化審議会著作権分科会法制度小委員会報告書(案)」に対する意見を提出しました

文化庁の「文化審議会著作権分科会法制度小委員会報告書(案)」に関する意見募集に対し、下記の通り意見を提出しました。

参考:「文化審議会著作権分科会法制度小委員会報告書(案)」に関する意見募集の実施について|e-Govパブリック・コメント
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185001279


「文化審議会著作権分科会法制度小委員会報告書(案)」に対する意見

一般社団法人インターネットユーザー協会

簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について

今回は中間まとめにある「分野横断権利情報データベース等に情報がなく、集中管理がされておらず、分野を横断する一元的な窓口による探索等においても著作権者等が不明の場合、著作物等に権利処理に必要な意思表示がされておらず、著作権者等へ連絡が取れない場合、又は連絡を試みても返答がない場合等」のケース(以下本ケースという)に対して手当を行う新制度が検討され、その結果に対する意見募集が行われていると承知している。

本ケースに限った著作物の円滑な利用を考えると、新制度では従来の方式の短所を改善する策が検討されており、また裁定制度の改善などにも触れられており、意義があると考えられる。

ただし下記の2点においてさらなる議論が求められる。

  1. 新制度による利用について、一般的な許諾による利用とは権利者の不利益の程度に特段の差異が生じないことから、低廉な利用料になることは想定されないとされているが、本ケースにおいては民間によるアーカイブ活動や個人の情報発信(ソーシャルメディアや動画、ブログなど)、教育などの零細な活動への利用のニーズも大きく、利用料が高い場合は本施策の目指す「コンテンツ創作の好循環」に資さない場合がある。ついては利用料の決定については一律ではなく、利用用途や形態に合わせた、合理的で納得できる価格設定を行うことが重要である。
  2. 窓口組織の運営のために一定の手数料が発生することはやむを得ない。対して著作権者からの申出がなく還元できない利用料を窓口組織の運営費等に充てることを柔軟な運用とした意見が示されているが、本ケースはその特性から著作権者からの申出が少ないことが想定される。また著作権者が見つかり、その本制度による利用について無償または減額で利用許諾された場合は、著作権者の意思を尊重し、利用者が納めた利用料の全額または余剰は速やかに返却されるべきだ。本報告書では、他人の財産について第三者が許諾を行うことに対する法的正当性について説明が難しいことから拡大集中許諾制度の導入を退けている。そうであるならば、他人の財産を窓口組織の運営費に回す運用を認めることについても、その法的正当性が議論されるべきだ。そしてクリエイターへの適切な対価還元を目指すのであれば、窓口組織は本来的に、著作権者を探して積極的に対価を還元すべきである。著作権者が現れないことで窓口組織の運営に使われる金額が増えるような制度設計は行うべきでない。むしろ窓口組織が権利者を探して利用料を還元できた場合にインセンティブが発生するような制度設計を考えることがクリエイターへの適切な対価還元につながるのではないか。

損害賠償額の算定方法の見直しについて

実損害額によらない損害賠償額の算定は、算定額が高額になる傾向があり、無視できない。損害賠償に懲罰的な効果を期待する声もあるが、それは軽微な著作権侵害においても訴訟が乱発されることにつながりかねず、社会的な混乱を引き起こす原因となる。ドイツでは軽微な著作権侵害にかかる訴訟が乱発されたことを背景とした著作権侵害警告濫用抑止および利用者保護のため弁護士費用を制限する著作権法改正がなされていることにも着目すべきだ。また実際に侵害行為がなかったとしてもユーザーが法外な和解に応じてしまうことも考えられ、振り込め詐欺のような犯罪に利用されてしまう可能性もある。

最近の事例として、ある小学校の校長がインターネット上にあるイラストについて、無料で使えるものを検索し学校だよりに利用したが、実はそのイラストは無料で利用ができるものではなく、賠償金を支払うこととなったことがあり、広く報道された。この校長は結果として著作権侵害を行ってしまったが、無料で使えるイラストを探すための検索クエリを入力することで適法に利用しようとする意思があったことにも目を向ける必要がある。「創作活動が萎縮しない配慮について」の項にある通り、著作権法制は誰もが権利者にも侵害者にもなり得ることに注意して、本施策の目指す「コンテンツ創作の好循環」に資するよう、著作物の利用が怖いものにならないようにすべきである。

研究目的に係る権利制限規定の検討について

研究目的の権利制限については導入しないという結論だが、検討にあたっては権利制限規定を求めるニーズがあったことは事実だろう。その上で分野ごとに権利制限規定を個別に検討することは効率が悪く、著作権法をさらに理解することが難しいものとなる。また「簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について」における新制度においては、零細な利用についても個別の権利処理を求められ、それにより利用の柔軟性やスピード感が失われ、また窓口組織の権利処理業務の負担も増し、権利処理手数料が高額になる恐れもある。さらに著作権の保護と利用のバランスを取る上では、著作権は産業振興策ではなく、言論の自由を担保し、教育やエンタテインメント、ユーザーによる技術検証・改善などにも資するものであるべきだ。その上では「コンテンツ創作の好循環」を生むことを視点に入れ、個別の権利制限規定の拡張ではなく、米国型フェアユースを範とした、公正で市場で原著作物に与える影響の少ない利用に関する権利制限の一般規定(フェアユース)を導入すべきだ。

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