2010.03.18
知的財産戦略本部「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するWG」に意見書を提出しました
MIAUは、3月15日の知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループ」第4回会合に対して意見書を提出いたしました。
内容は以下の通りです。
「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するWG」への意見書
2010年3月15日 一般社団法人 インターネットユーザー協会(MIAU)
代表理事 小寺信良
代表理事 津田大介
担当 八田真行
総論
1.現時点でのACTA草案を一刻も早く公開すべき。
一連の議事録を見ても明らかなように、今回のWGでの議論は、現在策定中の模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)の存在を前提に進められている。ACTAは国際条約であり、国内法の整備においても強制力を持つことになろう。しかし、ACTAは現在に至るまで一度も草案が開示されたことはなく、議論そのものについても完全な秘密主義が貫かれ、「リーク」という不自然な形でしか情報が外部に出てこないなど、策定のプロセスに重大な問題があり、国際的にも多くの批判を浴びている(※1)。すでに土肥座長も指摘しているように(※2) 、そもそも具体的な法文案がないものを前提に議論を進めるのは無理があると言わざるを得ない。議論する上での大前提として、現時点でのACTA草案を一刻も早く公開することを求める。また、ACTAに関する議論においては拙速な合意に至ることのないよう、強く要望するものである。
※1
たとえばhttp://www.eff.org/issues/acta※2
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/wg/internet/dai1/gijiroku.html2.侵害コンテンツによる「被害」は過大に評価されているのではないか。
侵害コンテンツによって権利者が被ったとされる被害額を算定する際、現在は「ダウンロード数×コンテンツの平均小売単価」で計算しているように思われる。しかし、有体物の万引き等と異なり、情報財としてのコンテンツはコピーによってオリジナルの価値が損なわれることはなく、また仮に侵害コンテンツが強力な規制によって完全に消滅したとしても、現在のダウンロード数と同等の需要が生じる(=購入するユーザが増える)とは限らない。むしろ、規制強化に伴う利便性の低下から、正規ユーザの数が減少する可能性すらある。よって、この種の「被害」額は、現実に即した推計よりもはるかに過大に算定されていると言わざるを得ない。
そもそも、著作権や規制の強化が、コンテンツの売上増につながることを支持する研究はほとんど存在しない。逆に、WinnyのようなP2Pソフトウェアの存在が音楽ソフトの売上に全く影響しないこと、あるいはむしろプラスの影響を与えているとする研究は数多く存在する(※3)。コンテンツが本質的に「経験財」であり、享受してはじめて価値が分かるものであることを鑑みれば、この結果は何ら奇異ではない。このような見地からすれば、「被害」額の過大な見積もりに立脚してむやみに規制を強化することは、規制の実施に要するコストを急増させるのみならず、ユーザの「コンテンツ離れ」を助長し、今後のコンテンツ市場やその創造基盤に回復不能なダメージを与えるだけになるのではなかろうか。
※3 田中辰雄・慶応大准教授の研究など。
3.ユーザからの意見具申の機会を設けてほしい。
侵害コンテンツ対策は、法律的、経済的、そして技術的な要素が複雑に絡み合った問題であり、できるだけ様々なバックグラウンドを持った人々によって議論されるべきである。中でもコンテンツの主たる消費者である一般的なユーザは、こうした対策によって最も影響を受ける立場であるにも関わらず、現状では発言の機会を十分に与えられているとは言えない。よって、より一層の情報公開と、WGへのユーザ代表の参加、直接的な議論参加の機会を求めたい。これは、ユーザのニーズを探るという点でも、消費者の啓発という意味でも有益だと考えられる。
プロバイダの責任の在り方について
1.ノーティス・アンド・テイクダウンではなく、あくまでノーティス・アンド・ノーティスを基本とすべき。
プロバイダによる侵害対策措置として、現在WGでは米DMCA(あるいはACTA)に則ったノーティス・アンド・テイクダウン・システムの導入を検討しているようである。しかしノーティス・アンド・テイクダウンは、実際の侵害の有無を確認することなくプロバイダがコンテンツを削除することを強制するという点で、表現の自由やプライバシーといったユーザの権利を深刻に損なう可能性が高く、目的に比して手段としての適切性を著しく欠くものと考えられる。
これに対し、権利者から侵害の可能性について通知された場合、侵害者と目されたユーザにプロバイダが通知を転送すること、そしてユーザごとに通知転送の事実と、場合によっては一定期間の(通信の秘密に抵触しない範囲での)アクティヴィティを記録しておくことを義務づける「ノーティス・アンド・ノーティス」システムでは、悪質な侵害コンテンツの排除とユーザの自由の両方を確保することができ、より適切と言える。すでにこのシステムが導入されたカナダでは、通知されたうち71%のユーザが侵害コンテンツを自主的に削除するなど、大きな成果を挙げている(※4)。侵害者の大半が、そもそも自分が侵害していることに気づいていないか軽視している「カジュアルな」侵害者であることを考えれば、この数字は当然のものと言える。日本においても、第2回議事録で指摘されているように、日本レコード協会によるメールでの警告が有効に機能したという事例がある(※5)。もちろん、悪意ある常習的な侵害者に対しては、権利者は情報開示請求の後に記録を根拠とした強力な対応が可能である。コストの面でも、侵害通知とその転送(および記録)は大幅な自動化が可能であり、少なくともノーティス・アンド・テイクダウンに要するコストを著しく上回るものにはなり得ない。
このように、ノーティス・アンド・ノーティス・システムは、権利者の権利、ユーザの権利、そして仲介者たるプロバイダの責任制限という点で、最もバランスがとれた優れた措置と考えられる。
※5
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/wg/internet/dai2/gijiroku.html2.「スリーストライク法」の導入には反対。
一部報道によると、ACTAには、複数回警告を受けたユーザのネット接続を強制的に切断するという、いわゆる「スリーストライク法」に関する条項が盛り込まれる可能性があると言う。WGにおいても、すでにスリーストライク法に関する検討が行われているようである。スリーストライク法は推定無罪の原則に反し、国民の通信の自由や表現の自由を不当かつ容易に侵害することを可能とするものであり、インターネットを介した情報アクセスの重要性が今後ますます増すであろうことを考えても、容認できるものではない。
加えて、第2回議事録においてすでに森田委員が指摘されているように、WGで現在想定されているのはフランスの現行HADOPI法とも違い、一切の司法手続を経ることなくプロバイダが任意に侵害者の利用を強制的に遮断する、というもののようである。そもそもHADOPI法に関しても多くの批判がある(というより、フランス以外に賛同する国は存在せず、当のフランスにおいても議論が続いている)現在、このようなものの導入には全く賛同することができない。アクセスコントロール回避規制の在り方について
1.アクセスコントロールでもコピーコントロールでもなく、「アップロードコントロール」を重視すべき。
問題とされるのは侵害コンテンツの広汎な流通であって、ユーザによるアクセス行為でもなければ、ユーザの手元におけるコピー行為でもないはずである。アクセスコントロールは、どれだけ技術的に洗練されたものであっても必ずユーザの利便性を大幅に損ない、正当で多様な利用をも困難とし、かつ国民の知る権利を阻害する。しかも、結局は侵害コンテンツの流通を止められないという意味で、権利者にとってさえ全く実効性がないものと言わざるを得ない。流出した後の対策を練るより、あくまで「蛇口を閉じる」ことに専心すべきではないか。
以上
その観点からすれば、日本の法律は、すでに権利者に対し、アップロードコントロールに関して強力な「武器」を多く与えている。アクセスコントロール回避機器の頒布に関しては不正競争防止法、侵害コンテンツのアップロードに関しては著作権法における公衆送信化権で十分対応できるはずである。むしろ、権利者に対する日本の法的保護は国際的に見てもかなり手厚い水準であって、これ以上の規制強化はステークホルダーの誰にとっても全く資するものではない。権利者には法制度的な庇護ではなく、あくまで適切な権利行使を以て違法アップロードと対峙することを求めたい
注記
上の文書は、首相官邸サイトに掲載された知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループ」第4回会合の配付資料2と同じものです。
当初3月18日にこのエントリーを公開する予定でしたが、手違いにより表示されておりませんでした。その後も新たなエントリーを上げている関係上、公開日時を当初の予定のまま公開させていただきます。
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