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プレスリリース

2011.07.07

文化審議会著作権科会法制問題小委員会で著作権法第30条への意見を述べました

MIAUは、7/7に開催された文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第3回)でのヒアリングに出席し、著作権法第30条に対して意見を述べました。ヒアリングで配布したMIAUの意見は以下のとおりです。主張内容も以下の資料に沿ったものです。

2011年7月6日
一般社団法人 インターネットユーザー協会

著作権法第30条に対する意見

当会は、インターネットに象徴されるデジタル技術につき、〈ユーザーがより創造的に活動でき〉かつ〈技術の発展を不当に妨げられない〉環境の実現が望ましいと考える。また、私的使用のための複製に対する権利制限を定めた著作権法第30条の規定は、ユーザーがインターネットやデジタル機器を利用する上で法的に「許される/許されない範囲」を決定してしまうほど大きな社会的影響力を持つものと考えている。以下に当会の意見を述べる。

私的録音録画補償金制度について

私的録音録画補償金制度は、法制問題小委員会(05年から06年)での検討の結果、「抜本的見直しの必要性」が指摘されたが、その検討を引き継いだ私的録音録画小委員会(06年から08年)での議論を経てもなお、「抜本的」な制度の改革は行なわれていない。日本の同制度は補償金の支払義務者がユーザーに設定されているものの、録音録画機器やメディア購入者に対するその制度の周知が未だ十分とは言えない。その一方で同制度を知るユーザーからは、制度の趣旨に関し、新しいデジタル時代のあり方と乖離しているのではないかという指摘が多い。

同制度のうち私的録画補償金に関しては、デジタル放送専用録画機器の支払いをめぐって権利者・メーカー間で現在係争中であり、今後の裁判の行方が注目される。しかしこの件は、総務省「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」での議論、ダビング10の実施、文科省・経産省間の両省合意など様々な要素が複雑に絡み合っており、補償金制度一般を考える題材とするには特殊すぎるであろう。

補償金制度を一般論で考えるためには、ユーザーの複製行為の実態が、補償の必要なほどコンテンツビジネスに影響を与えているかという観点をもっと議論に組み入れるべきである。また、ユーザーの利便性をその意思にかかわらず制限するDRMと補償金とのバランスが取れているかという点についても、ユーザーの意見が反映されるよう強く望む次第である。

アクセスコントロール回避規制導入について

今年 1 月 25 日の文化審議会著作権分科会でまとめられた報告書には、著作権制度へアクセスコントロール回避規制を盛り込む旨の記載がある。しかし安易にアクセスコントロール回避を規制することで、ユーザーの正当なコンテンツ利用およびわが国の ICT 技術の発展を妨げるおそれを生じる。以下4点においてその理由を示す。

    1. ユーザーが正規に入手したコンテンツを長期的に鑑賞できる保証がない

長期的にコンテンツを保存し日本文化を未来に伝承するためには、当該コンテンツの鑑賞そのものが長期間にわたって可能でなければならないが、アクセスコントロールの為されたコンテンツはその正当な視聴が未来にわたって保証されているわけではない。アクセスコントロールは、ユーザーレベルの文化の伝承を疎外する仕組みである。

例えば、技術の進歩やコンテンツ事業者ないし機器メーカーの新陳代謝により、記録メディアや再生機器などが陳腐化し、コンテンツにアクセスできなくなることはこれまでもあった。VHD、LD、MD、コンパクトカセットなどのように、今後も間違いなく起こることである。新しいプラットフォームでコンテンツを買い直せばよいという意見もあるかと思われるが、すべてのコンテンツが新プラットフォームで販売されるわけではない。さらにかつてユーザーが正規に入手したコンテンツであるにもかかわらず、「自ら選んだ態様で末永くコンテンツを楽しみたい」ユーザーの利便性を著しく損なうのは問題である。

    1. アクセスコントロール技術の正当性が検証できなくなる

過去に存在したアクセスコントロール技術には、セキュリティホールやハードウェア故障の原因となり、開発者が意図した以上にユーザーの利益を害したものも存在した。こうした被害からの自助行為として、解析行為やそれに伴う迂回行為までをも違法とするような規制は、被害実態の検証や責任の追及を妨げ、ユーザーの安全な利用を害することとなり得る。

    1. 侵害コンテンツの流通防止に対する法的枠組みは既に整備されている

アクセスコントロール回避規制導入の議論のきっかけとなった、ゲーム機の「マジコン」のような機器の販売・流通は不正競争防止法で、侵害コンテンツの不正アップロードは著作権法(自動公衆送信権および送信可能化権)で、既に十分に対応できる法的枠組みが整っている。

対応可能な既存の仕組みを活用せず、いたずらに新たな規制を導入することは、家庭内におけるバックアップ行為が困難になる等、ユーザーに新たな不便・不利益を強いることにつながる。

    1. 著作権法が実質的に特定のハードウェアやプラットフォームを保護してしまう

著作権法は、ソフトウェアやコンテンツの保護と利用のバランスを図った上で、文化の発展に資することを目的とした法律である。それにもかかわらず、アクセスコントロール回避規制の導入は、あるコンテンツを特定のプラットフォーム以外での再生を禁止することを可能とする。これでは、著作権法が特定のハードウェアやプラットフォームの“囲い込み”を保護することにもなり、健全な市場競争の阻害と技術開発・進歩への悪影響を及ぼす。ひいては、我が国の国際競争力を押し下げることへとつながる。

権利制限の一般規定について

現在インターネット上では、ユーザーによるコンテンツの紹介や評論が広く行なわれている。これらの紹介・評論行為の対象はテレビ番組も含むが、内容を補強するための参照用としてキャプチャ画像(静止画)や動画を掲載することもある。この動画やその1コマを参照させる際、ファイル形式や掲載のツール、データを蔵置するサーバなど、どう選択すれば著作権法に定められた「引用」であると解されるか不明瞭なところがある。紹介・評論行為に不可欠な掲載であれば権利者の利益を損なうことにはならないと思われ、「引用」との関係が明らかになるまで一般規定で手当てすることはできないだろうか。

また、上記2でも述べたが、技術の発達や事業者の都合により、コンテンツ再生プラットフォームの変更をユーザーが余儀なくされるケースは今もなお続いており、これらの問題は今後も永続的に起こり得る。正規に購入したコンテンツを今後も視聴可能にするための、このプラットフォーム変更に伴うコンテンツのフォーマット変換を、複製行為としてすべてユーザー自らが行なわなければならない一方で、ユーザー個人の知識あるいは技術レベルが必ずしもそれに対応できるとは限らない。よってプラットフォームの陳腐化に伴うフォーマット変換に関しては、すべてのユーザーがコンテンツを正当に享受できるよう、権利制限の一般規定として事業者の関与を認めるべきではないか。なぜならば、それらの事情によるフォーマット変換は、複製ではあるものの旧プラットフォームではまもなく再生が不可能になるものであり、複製数としては増加したとは言えないからである。

送信可能化権および公衆送信権の整理について

まねきTV裁判において最高裁判所は、該当サービスがテレビ局の自動公衆送信権および送信可能化権を侵害しているとの判断を示した。しかしこの結論が導かれる過程において、1対1通信しかしない機器であっても、誰とでも契約できるならばその送信は自動公衆送信であるという解釈がなされている。

しかしながらこの解釈は、クラウドサービスの運営を違法とする可能性の高いものであり、ネット事業者がクラウドサービスを日本国内で展開する上で大きな障壁となりはじめている。そしてユーザーの健全な利用であっても、事業者の違法行為に荷担するものとして、潜在的な違法状態に置く可能性もある。

特にコンテンツ制作現場においては、著作物データをインターネット上のクラウドサービスを介して、著作権者と隣接権者間で相互に受け渡しすることが日常的に行なわれており、これらの行為も隣接権者においては潜在的違法状態となる可能性もある。

まねきTV最高裁判決で示された法解釈は、今後の日本のコンテンツビジネスならびにインターネットビジネスの発展に対し大きな障害となり得る。日本企業が新しいクラウドサービスの開発を行う際の極めて大きな潜在リスクとなるだけでなく、国際的なクラウドサービスが日本を明示的にサービス提供地域から外すことによって、国際的なコンテンツ制作の阻害要因となる可能性もある。ユーザーとしても、世界中で使われている新しいクラウドサービスを日本でだけ使用することが出来ない、日本向けのサービスが充実しないといった”鎖国状態”のような不便を抱える恐れすらある。

自動公衆送信権および送信可能化権については、隣接権者の一部分の権利を保護する代償として多大な違法状態を生み出すようなことのないよう、解釈の範囲をより限定的にすべきである。そのために法改正やガイドラインの作成など、具体的な対応を講じるべきである。

以上
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