2012.09.05
文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第4回)の関係団体ヒアリングで「間接侵害」について意見を述べました。
MIAUは、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第4回)の関係団体ヒアリングで「間接侵害」について意見を述べました。
内容は以下の通りです。
2012年9月4日「間接侵害」についての意見
一般社団法人 インターネットユーザー協会(MIAU)【要旨】
- 「間接侵害」の創設には反対。
ただし、以下の1〜3の問題が解決される場合には賛同の余地が残される。
- いわゆる「カラオケ法理」等によって過度に拡張された直接侵害の範囲を縮小・整理し、その上で間接侵害を改めて定義すること
- 公正な利用を著作権侵害としないことで、間接侵害の範囲を過度に広げないようにすること
- 間接侵害の要件を明確かつ具体的に規定すること
リーチサイトへの規制には全面的に反対。 【理由】
1. いわゆる「カラオケ法理」等によって過度に拡張された直接侵害の範囲を縮小・整理し、 その上で間接侵害を定義すること
これまで日本には、間接侵害という概念がなかったことから、「カラオケ法理」を用いて直接侵害の範囲を過度に拡張し、擬似的に間接侵害を作り出してきた。このような拡張的・擬制的直接侵害によって、著作物に多少なりとも関わる物品(各種装置や機器、プログラム等)や場(ウェブサイト等)の提供において、予見可能性の欠如という大きな問題が生じている。この点は、平成23年度司法救済ワーキングチーム(WT)の「『間接侵害』等に関する考え方の整理」においても、「差止請求が可能な範囲を法律上明確化すべきとの従来からの権利者側の要請に加えて、利用者側の立場からも、差止請求を受けない範囲を明確化すべきとの要請が強くなされるに至って」いると記述されているとおりである。このような予見可能性の欠如は、著作物に関わる物品・場の提供を萎縮させ、結果としてインターネットユーザーにも不利益をもたらしている。
間接侵害を創設するにあたっては、このような擬制的・拡張的な直接侵害について法律上の整理を行い、その範囲を限定的にした上で、間接侵害を創設するのでなければ、予見可能性を高めることにはつながらない。
間接侵害が擬制的・拡張的直接侵害とは独立して創設されても混乱は生じないという意見もあるが、今後の議論において、間接侵害の範囲が擬制的・拡張的直接侵害の範囲よりも狭まれば、間接侵害の創設後も擬制的・拡張的直接侵害による司法判断が求められることになる。物品・場の提供者からの「差止請求を受けない範囲を明確化すべきとの要請」に応え、予見可能性を高めるためにも、直接侵害として扱うべきものと間接侵害として扱うべきものを明確に分け、カラオケ法理によって過度に拡張された直接侵害を整理した上で、間接侵害を規定すべきである。
2. 公正な利用を著作権侵害としないことで、間接侵害の範囲を過度に広げないようにすること
インターネットやウェブサービスが発展したことで、インターネットユーザーの考える私的領域の範囲は確実に広がった。個人向けに提供されるオンラインストレージやクラウドサービス、形式変換サービスでは、インターネット上のサーバにデータが複製され、利用の際にはデータがサーバから送信される。しかしサービス利用者本人は、外部のサーバに複製をアップロードするという感覚より、むしろ私的な領域に保存する感覚で利用している。そのようなサービスの中には、現行の制度や判例に照らして判断すれば、MYUTA事件のように著作権侵害とされる場合もある。これは著作物の保護と利用とのバランスという視点からは、保護に偏り過ぎている。
第30条1項1号では、公衆自動複製機器を用いた複製を、著作権の制限される私的複製の範囲から除外するとしているが、このような複製行為は、正当に取得した著作物で、かつ、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」での使用に留まるものであれば、権利者に新たな経済的損失を与えることはない。複製が家庭内のコンピュータ上で行われるか、インターネット上のサーバ上で行われるかの違いしかなく、実質的には自己が所有する複製機器で複製することと変わらない。そもそも私的利用を目的とした複製であることを考えると、私的複製とみなされるのが当然である。
第30条1項柱書きでは、私的複製の要件として「その使用する者が複製することができる」としているが、私的領域内での使用を目的とし、利用者の手足として複製を行なっていると評価できる場合には、利用者以外の者が複製行為を行えるようにすべきである。
以上の理由から、第30条第1項柱書きの「その使用する者が複製することができる」については、使用者の手足となる者も含むように範囲を拡張し、第30条1項1号については削除または範囲を縮小すべきである。このようなケースが著作権侵害に当たらないことを明確にしなければ、日本のウェブサービスの発展が妨げられ、それによって得られていたはずの消費者の利益が損ねられる。
また間接侵害について検討する際は、著作権法第30条以外にも、時代に即した公正な利用を規定するために、米国のフェアユースに該当する条件を国内事情に照らしあわせて検討するなど、国際的にも整合性のとれたものにするべきである。
3. 間接侵害の要件を明確かつ具体的に規定すること
司法救済WTが取りまとめた「『間接侵害』等に関する考え方の整理」では、間接侵害の定義に曖昧な部分が散見される。現状の取りまとめを見る限り、予見可能性の問題が解決されるとも考えられず、更なる混乱が生じる懸念がある。
司法救済WTの取りまとめでは、間接侵害について以下の3つの類型が挙げられている。
( i ) 専ら侵害の用に供される物品(プログラムを含む。以下に同じ。)・場ないし侵害のために特に設計され、または適用された物品・場を提供する者
( ii ) 侵害発生の実質的危険性を有する物品・場を、侵害発生を知り、又は知るべきでありながら、侵害発生防止のための合理的措置を採ることなく、当該侵害のために提供する者
( iii ) 物品・場を、侵害発生を積極的に誘引する様態で、提供する者
しかしこれらは具体性に乏しく、どのような行為が間接侵害に問われうるのかが定かではない。ついては「個別具体的に判断する」に留めるのではなく、具体的な要件を示すべきである。
類型(ⅱ)については、「侵害発生の実質的危険性」とあるが、どのような様態であれば、「侵害発生の実質的危険性を有する」と判断されるのかが不透明である。類型(ⅲ)ほどあからさまではない場合を想定しているように思われるが、著作物に多少なりとも関わる物品・場の提供について広範囲に差止対象となりうるように思われる。また、「知るべきでありながら」とあるが、具体的にどのような状況において知るべきとみなされるのかが定かではない。取りまとめでは「ヒットワン事件」を例示しているが、インターネット上で不特定多数のユーザを対象としたウェブサイトやサービスを提供する場合には「ヒットワン事件」は参考にならない。権利者の判断を仰がず間接行為者自ら著作権侵害を判断せよということなのか、すべての著作物について権利者に照会せよということなのか、当該侵害以外に著作権侵害通知を多数受け取っていることなのか、など多義的であり、間接行為者が何を持って「知るべき」とするのか曖昧である。さらに「侵害発生の防止のための合理的措置」とあるが、たとえばCGMサイト等に著作権侵害防止策を実施するよう義務づけるものとも考えうる。このような曖昧な表現に留めるのではなく、具体的な免責条項として定めるべきである。
類型(ⅲ)については、「当該ウェブサイトに無許諾の音楽ファイルを投稿することを積極的に呼びかける者」と例示されているが、「音楽ファイルを無断で投稿してください」と呼びかけるウェブサイトなどありえず、現実味に欠ける。「侵害発生を積極的に誘引する様態」と判断しうる様態について、きちんと整理し、その上でより具体的な要件を明記すべきである。また、たとえばビデオ共有サイトや、その動画をダウンロードできるサービスを提供するウェブサイトが、上記の3類型に照らした時、間接侵害に問われうるのか、問われるとするならば、具体的にどのような条件を満たしたときにどの類型に該当するのか――という具体的な説明が必要である。
コミックマーケットなどいわゆる同人誌の即売会においては、参加者による「パロディ」作品の提供が常態化しており、上記3類型でいえば(ⅱ)に該当すると思われる。非オリジナルの同人作品を販売する即売会の場合、その運営者が間接侵害に問われ、差止請求の対象となりうる。司法救済WTの取りまとめでは、「物品・場の提供全般を差止請求の対象とするのではなく、あくまで特定の侵害に係る物品・場の提供を差止請求の対象と位置付けている」としていることから、同人即売会全体に対する差止ではなく、特定の作品に関わる「パロディ」作品についてのみ差止の対象になるように思われるが、オンリーイベントと呼ばれる特定の作品等について開催される同人即売会であれば、即売会そのものが差止の対象となりうる。パロディ作品を含む「同人」は、文化の発展や多様性を支える側面もあり、一意に違法化すべきではない。
以上の点から、(ⅱ)および(ⅲ)の該当条件については多くの曖昧な点を残しており、また新たな予見可能性の欠如を招くことにもなり得る。間接侵害の条件は、直接侵害への明示的な寄与があり、因果関係が明確な場合に限定すべきである。
リーチサイトについて
インターネットユーザーの立場から、リーチサイトへの規制は全面的に反対である。リーチサイトと言っても、その有り様は多種多様であり、リーチサイトへのリンク行為はどうなるのか、リーチサイトのURLがSNSを通じて転送され続けた場合はどうなるのか、また適法な内容を示すサイトを掲載したはずが、後日同じURLのままで違法なファイルの掲載などがされた場合はどうなるのか、といった予見できない状況が数多く発生する。
情報と情報を関連付けるハイパーリンクは情報通信の基幹技術であり、インターネットの利便性はハイパーリンクによってもたらされている。またハイパーリンクはいまやウェブサイトにとどまるものではなく、現在普及過程にある電子書籍にもハイパーリンクは用いられている。リンク行為を規制することは、今後の情報通信技術の発展全体に影響を及ぼすだけでなく、社会に大きな混乱をもたらす。
いたずらにリンク行為への規制を拡張するのではなく、違法アップローダーや違法アップロードされたコンテンツへの対処でカバーすべきである。
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