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プレスリリース

2015.11.02

TPP知財条項について議論される「文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(第6回)」に意見書を提出しました

MIAUは、TPP知財条項について議論される「文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(第6回)」に、下記の意見書を提出いたしました。また当日は下記意見書にそって事務局長の香月が意見を述べます。

内容は以下の通りです。

2015年11月4日

TPP批准にかかる著作権法改正について

一般社団法人 インターネットユーザー協会(MIAU)

TPP交渉が大筋合意と公表されてまもなく1ヶ月が経過しようとしているが、いまだ条文が公開されておらず、政府や文化庁から発表されているのはその概要にすぎない。このような情報が乏しい状況で議論をはじめることに憤りを感じる。合理的な議論を進めるためにも、TPPの条文、そしてその付随文書をすみやかに公開することを強く求める。政府は「TPPはパッケージである」と説明している。そうであるならば知的財産条項だけでなく、その全てをすみやかに公開するべきだ。

政府から与えられた限られた情報、およびリーク文書から得られた情報を鑑みるに、TPP批准にかかる著作権法の改正について、MIAUは反対する。著作権の強化のみが図られ、ユーザーの創作や言論を萎縮させ、著作物の正当な利用を害する条項の導入には反対する。ただしTPPの批准が避けられないということであれば、著作権保護期間の延長、著作権侵害の非親告罪化、法定賠償制度の導入について、thinkTPPIP(TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム)が提出した意見に同意する。加えてMIAUからは下記の2点を提案する。

立法時期・施行時期等について

一部の国内メディアによれば、国内法制定は来年通常国会ともされているが、現在の海外での報道を見るかぎり、その時点ではTPP自体の発効はおろか、発効が確実であるとの見通しさえ立たない可能性が高い。しかし、著作権制度の情報立国・コンテンツ立国にとっての重要性を踏まえれば、これは極めて不利な選択だ。最終的な条約の発効を踏まえ、それまでの国内外の議論の蓄積やビジネス状況を十分に反映した柔軟な国内立法を目指すことが当然であり、前のめりに国内立法を済ませる理由は全くない。「TPPはパッケージである」ならば、国内法の改正も、同様にTPPとパッケージであるべきである。

なお、仮にどうしても前倒し導入が防げない場合には、附則で国内法の発効時期をTPP発効の翌年と定める必要がある。施行さえも前のめりになれば、政府自身が「屈辱的」と評する戦時加算によって追加保護中の海外コンテンツをみずから延命させるのみとなる。

この点において、保護期間延長については特に、施行時点で保護期間が満了している作品は復活保護しないことは当然だ。

また、前記の戦時加算解消については、現在存在するとされる各国との交換公文 [1] が単に「米豪など政府が民間に加算分返上を働きかける」という程度の内容だとすれば、実効性は極めて不十分だ。各国に戦時加算を本気で解消させるために も、保護期間延長の導入は戦時加算解消の確約後とすべきである。

活動自粛を防ぎ、流通促進をはかるセーフガードの導入を

保護期間延長、非親告罪化、法定賠償金の導入、そしてアクセスコントロール回避規制の強化などについては、それ自体の国内立法過程において、登録作品のみを対象とする、また悪質な海賊版ビジネスのみを対象として注力するなどの十分なセーフガードを組み込むべきだ。それに加えて、わが国の社会・経済の活力を維持し、豊かな文化を育むため、次のような制度の導入を提案する。

(1) フェアユース規定の本格導入を

遅くともTPP著作権条項の国内立法までに、公正で市場で原著作物に与える影響の少ない利用に関するフェアユース規定(権利制限の一般規定)を導入すべきである。TPPがこうしたフェアユース規定の導入を制約していないことは、米国自身がフェアユース規定によって二次創作や新規ビジネスなど社会の活力を維 持してきたことが物語っている。韓国も米韓FTAで米国の著作権要求を受け入れる際、フェアユース規定を導入している [2] 。加えて米国ではコピーコントロール・アクセスコントロール回避規制に関する新たな例外ルールを成立させた [3] 。フェアユース規定は単なる産業振興策ではなく、言論の自由を担保し、教育やエンタテインメント、ユーザーによる技術検証・改善に資するものであるべき だ。またこれは政府や文化庁から示されていないTPPの条文の中にも示されている [4] 。権利の強化に関する条項だけでなく、このような条文についても十分に国内法で手当てされるべきだ。

(2) ECL(拡大集中管理)や制限規定化をはじめとする著作物の利用制度を

国内外の各種調査で過去の全作品の50%以上とも言われる権利者不明の孤児著作物の問題は、保護期間の延長や、非親告罪化・法定賠償制度の導入にともなう自粛の広がりによって、より深刻化する可能性が高い。現在の長官裁定制度の存在意義は認めつつ、更に充実した著作物の利用制度を導入すべきだ。

(3) 作品登録制度の導入など、権利情報データベースの大幅な充実を

同じく、権利許諾を得やすくする制度構築が望まれる。現在の実名登録や創作年月日登録制度を改正して全ての著作物を著作権登録の対象とし、JASRAC(日本音楽著作権協会)など既存の権利情報データベースと連動・ネットワーク化させるなど、著作権・著作隣接権の孤児化を防ぎ、権利許諾を得やすくする施策を更に進展させるべきだ。

(4) クリエイティブ・コモンズなどパブリックライセンスの、政府での本格導入と本格普及を

文化庁では2012年、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)の普及をはかる旨表明しているが [5] 、その他のパブリックライセンス制度と共に、なお国内での認知度・普及度は低く、CCライセンスを公式採用するウィキペディア・YouTube・ Flickrなどの米国プラットフォーム勢や欧州ユーロピアーナに大きく水をあけられた状態だ。作品の広い流通をのぞむ権利者に選択肢を与え、作品を孤児 化から守り、権利処理コストを社会全体で低下させるためにも、今後は大幅にその支援・促進を進めるべきだ。例えば、各省庁が発行する定期刊行物や審議会資 料などといった公共性の高い著作物全てに適用するためのロードマップや数値目標など、具体的な普及の取り組みを示すべきである。

[1]「TPP交渉参加国との交換文書一覧」(TPP政府対策本部)参照。
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/10/151005_tpp_koukan.pdf

[2] As Korea Implements Fair Use, Two Cases Offer Precedent for Flexible Copyright Exceptions and Limitations(infojustice.org、2013年2月18日)
http://infojustice.org/archives/28561

[3] Exemption to Prohibition on Circumvention of Copyright Protection Systems for Access Control Technologies(米国立公文書記録管理局、2015年10月28日
https://www.federalregister.gov/articles/2015/10/28/2015-27212/exemption-to-prohibition-on-circumvention-of-copyright-protection-systems-for-access-control

[4] Wikileaks 2015年10月9日リーク条文 QQ.G.17項に「Appropriate Balance in Copyright and Related Rights Systems」として、批評や論評、ニュース報道、教育、学問、研究やそれらに類するものを制限してはならないと明記されている。
https://www.wikileaks.org/tpp-ip3/WikiLeaks-TPP-IP-Chapter/page-32.html

[5] 文化庁、CCライセンスを支援へ 独自ライセンス構築は断念(ITmediaニュース、2013年3月27日)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1303/27/news105.html

以上

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