MIAUは、2017年6月30日に開催された文化庁第17期文化審議会法制・基本問題小委員会(第2回)でリーチサイト規制についてヒアリングを受け、意見を述べました。
内容は以下の通りです。
リーチサイト規制への考え方
一般社団法人インターネットユーザー協会
情報と情報を関連付けるハイパーリンクは情報通信の基幹技術であり、インターネットの利便性はハイパーリンクによってもたらされている。リンク行為を規制することは、今後の情報通信技術の発展全体に影響を及ぼすだけでなく、社会に大きな混乱をもたらす。ゆえに当会はリーチサイト規制には反対の立場をとる。いたずらにリンク行為への規制を拡張するのではなく、違法アップローダーや違法アップロードされたコンテンツへの対処でカバーすべきだ。
我が国でのリーチサイトの議論の際に参照されている電気通信大学の研究報告は、本小委員会の議論の中でも参照されているが、この調査は2011年度の調査ということもあり、2017年現在の状況を反映していない。特に映像と音楽についてはサブスクリプションサービスが登場し、それらを利用するユーザーも増えている。米国では音楽の聴取態様としてサブスクリプションでの聴取数がYouTubeを用いた聴取数を超えたという専門調査機関の調査結果もある。現在の状況とデータに基づいた議論をすべきだ。
音楽や映像に関しては、合法かつ利便性の高い環境を整備した、ここ数年の権利者の判断は評価される。その上で音楽や映像以外にも合法で利便性の高いサブスクリプションサービスの整備が待たれる。日本でも特に雑誌やマンガの分野では成功モデルが出てきはじめている。現在は適法なサービスが成長を遂げている過渡期であり、過渡期に対応するためだけの対応策を法制度として整備することは将来に影響を与える可能性が大きく、拙速な法改正はユーザーやサービス提供者への影響が大きい。
リーチサイト規制は表現の自由などへの影響が大きい。またリーチサイトの定義をどのようにするかが大きな議論となる。
例えば
- TwitterやFacebook、Yahoo!知恵袋など、ユーザーによる書き込みが主導するサービスをリーチサイトとするのか
- リーチサイトとする単位(サービス全体なのか、アカウント単位なのか、個別の書き込みなのか)の判断は非常に判断が難しい
- 報道や評論、公益通報などを目的としたサイトをリンクした場合はどうなるのか
- 例えばWikileaksのリーク内容には著作物が多く含まれている
- そのリーク情報へのリンクを張ったメディアはリーチサイトになるのか
- 短縮URLサービスを使うなどして、外形的にユーザーがURLそのものを認知できない場合はどうするのか
- URLだけを書いてリンクを貼らない場合はリーチサイトとされないのか
- URLを画像で書いた場合はリーチサイトとしないのか
などの論点が考えられ、これらは利用者として無視できない論点だ。
また現状の議論で挙がっているリーチサイトの要件に「営利目的」が検討されているが、ウェブサイトの運用上「営利目的」にはさまざまな議論がある。「営利目的」を判断基準の一つとした欧州のGSメディアを巡る裁判においても、EU司法裁判所の判決には議論があるところを無視はできない。
またリーチサイト規制に代わる違法アップロードへの対応策として間接侵害の導入も考えられる。ただし間接侵害を議論する場合は
- いわゆる「カラオケ法理」等によって過度に拡張された直接侵害の範囲を縮小・整理し、その上で間接侵害を改めて定義すること
- 公正な利用を著作権侵害としないことで、間接侵害の範囲を過度に広げないようにすること
- 間接侵害の要件を明確かつ具体的に規定すること
を考慮することが重要になる。
リーチサイトの議論に限らず、違法なコンテンツ流通への対抗策を議論する場合、ステークホルダーの間で「どのような流通経路を止めたいのか」を明確かつ限定的に共有し、範囲を明確にした上で議論をすべきだ。「念のため網をかけておく」という議論は消費者には受け入れられない。
ドメインを差し押さえたとしても、違法アップロードされたサーバが消えるわけではなく、本質的な解決にはならない。インターネット上の違法コンテンツへの対策は「ユーザーが合法にコンテンツを利用できるサービスの創出」と「違法アップロードへの対応」を徹底することで対応できるはずだ。
最後に、リーチサイト規制のような、インターネットの運用全般に係る議論はインターネットガバナンスそのものにも関わってくる。インターネットガバナンスに係る議論と同様に、本議論もマルチステークホルダープロセスをとり、ユーザーや実務者などの意見を取り入れることも重要だと考える。
以上
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