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プレスリリース

文化庁文化審議会法制・基本問題小委員会からうけた静止画ダウンロード規制に関する意見照会に回答しました

MIAUは、2018年11月9日(金)に開催された文化庁第18期文化審議会法制・基本問題小委員会(第4回)で静止画ダウンロード規制についてヒアリングを受けてさらに受けた意見照会に書面で回答しました。

内容は以下の通りです。


2018年11月21日

文化庁著作権課御中

ダウンロード違法化の適用範囲が拡大した場合の懸念事項に関する照会について

一般社団法人インターネットユーザー協会

いただいた照会について、下記の通り回答いたします。

1.音楽・映像について

ユーザー側に、当初懸念されていたような不利益・混乱等が生じた事例を把握されているか。また、ダウンロード違法化によりインターネット利用の萎縮は生じたか。

「ダウンロード違法化でユーザーは萎縮しなかったはずだ。だから今回も厳し目の規制を敷いても良いだろう」という論理を、当会は受け入れられない。ダウンロード違法化による刑事訴訟が1件も行われていない以上、その効果は実行的というよりは示威的な部分に力点が置かれているであろう。P2Pファイル共有ソフトウェアのユーザーは、全員が違法に著作物をコピーしあっているわけではない。それは、この数年間WinnyやShareのノード数が大きく変化していないことや、権利者による告発や警察による摘発が行われていないことからみても、十分に妥当性のある推測だ。合法とも違法ともいえない状態でのトラフィックが、事務局資料の通りDL違法化によって大きく減少したのならば、それは紛れもなくユーザー側の「混乱」であったと理解するべきである。

その上で音楽・映像のダウンロード違法化、そしてその刑事罰化によってユーザーのコンテンツ利用について萎縮は生じたが、その萎縮や不安をプラットフォームがサブスクリプションビジネスなどを通じて吸収したと理解している。インターネット上の動画や音楽は配信ビジネスモデルごと変更され、現行の配信システムに我が国の企業はほぼ入っていない、という状況については、危機感を持って理解するべきである。

動画を例にすれば、現在はYouTubeなどの大手動画サイト以外で動画を閲覧する行為はほぼなくなった。これは配信側の便宜という側面と同時に、ユーザーは動画ファイルが合法なのか違法なかを外形的に判断できないため、プラットフォームがそれを代替することでユーザーの安全性を保持している形になっているからである。しかしプラットフォームは権利者ではなく、その判断にはブレが出る。さらに言えばYouTubeは米国デジタルミレニアム著作権法のノーティスアンドテイクダウンルールによって責任制限が行われ、その運営が担保されている。故に動画プラットフォームがDMCAによって不当な削除要請に応じてしまうという問題も指摘されている。

また、P2P技術に対して違法なイメージが生じ、P2Pを用いるソフトウェアの使用そのものに萎縮効果が生じた。これによりP2Pソフトウェアの進展について技術的にも商業的にも大きな足止めを受けたことは大きな損害であった。P2Pファイル交換を狙い撃ちにするような政策は、一つの技術的未来を政策的に閉じたと理解するべき事例であるかもしれない。

2.静止画(漫画・雑誌・書籍)について

(1)仮に、「静止画」の対象範囲が明確となり、「事実と知りながら」という主観要件が課される場合(この場合、ユーザー側が確定的に違法にアップロードされた対象著作物だと知っている場合にのみ、ダウンロードが違法となる)でも、なお、懸念されるような事例はあるか。可能な限り、具体的に御教示いただきたい。

(2)そのような事例において、ユーザー側のダウンロードを正当化する理由はあるか。

懸念される事例を具体的に示すには、静止画の定義や、確定的に違法にアップロードされたファイルかどうかを判定するステップによるため、現状では答えることが難しい。特に雑誌や書籍は版面スキャンデータのみに限るのか、テキストデータを含んで静止画とするかによって大きく議論の内容は変わるだろう。

そのうえで前回提出した意見書にある通り、我々は「静止画」の対象範囲を明確化すること自体が難しいと考える。前回提出した意見書のような事例をユーザーが混乱なく定義することは不可能ではないか。また「ユーザー側が確定的に違法にアップロードされた対象著作物だと知っている」状況を作り上げることも難しいと考える。静止画版Lマークが導入されたとしても、当該ファイルにそのサイトで配信されているかどうかを調べることは不可能であると考える。

特に静止画ファイルはソーシャルメディアやCGMサイトに多くアップロードされ、その中には理由はさまざまだが、自身に著作権のないファイルがアップロードされることもある。このような場合にユーザーはそのファイルが確定的に違法アップロードされたものかを判定することはできない。また漫画の一コマなどを感情を表すために使用したり、作品批評のための引用としてアップロードする場合も考えられるが、これをダウンロードして使用することが違法かどうかをユーザーが判断することは不可能である。またこのような零細な使用も違法として摘発するのか。音楽や動画と同様の誰も摘発できない法文を加えることには、真に法の目的に沿った意義があると言えるのか。

静止画ダウンロードを違法化することによって、ネット上に普遍的に存在する多種多様な画像を閲覧することへの法的リスクが大きく増大することは確実である。そのため、①直接の権利者ではないプラットフォーマーが著作権チェックの機能を代替する一方で、②無法地帯は無法地帯のまま残り続けるという二極化へ至るだろう。法律は、どのようにエンフォースされるかについてまで目を配らねばならない。つまり、大手プラットフォーム以外から発信された情報は基本的に安心できないものとなり、個々人が自由に情報を発信するインターネットという姿は一段と崩壊の危機に近づくだろう。大手プラットフォーム(しかも主要なものは海外)が我が国国民ひとりひとりによって制作される表現の生殺与奪権を握る形を後押しするという状態を目指すことは、我が国の文化の発展に寄与するための著作権法が目指すべき方向性として、全く首肯出来ない。

また、ユーザー側の内面を客観的に知悉することが現実問題として困難である以上、先に述べたようにダウンロード違法化は具体的な摘発を目的としたものというよりも示威効果としての性格が強いと言わざるを得まい。そして、「破ったところでどうせ逮捕されることがない」という法律をさらに用意してしまうことは、我が国国民の遵法意識を下げるリスクがあるのではないか。情を知らない人間が正当化を行う必要は何もない。しかし、常に「違法かもしれない」という疑念が宿るようになる。それを我々の言葉では不安と呼び「萎縮」と呼ぶのではないか。そして一方で、萎縮しない人間は「どうせ逮捕されないから法律なんか守る必要はない」に至るのではないか。安心・安全を脅かす仕組みを国が提案することについては全く同意し難いということを再度強調しておきたい。

3.著作物全般について

(1)仮に、他の著作物(プログラム等)を含めた著作物全般にまでダウンロード違法化の対象が広がった場合、2.(1)に加えて、懸念されるような事例はあるか。可能な限り、具体的に御教示いただきたい。

(2)そのような事例において、ユーザー側のダウンロードを正当化する理由はあるか。

現在のプログラムの利用態様から考えれば、プログラムをダウンロード規制することには効果がない。現在多くの有償のソフトウェアはオンラインライセンス認証、そしてサブスクリプション契約にて提供されている。不正な利用はソフトウェアベンダーの認証によって十分排除が可能である。

例えばPhotoshopなどの画像・映像ソフトウェア業界で支配的なシェアを持つAdobeのソフトウェアはそのすべてが毎月一定額を支払ってソフトウェアの利用を行う会員制のサブスクリプション契約であるから、Adobe社が不当とみなしたユーザーはすべてAdobe社側で任意に契約を解除できる。そして、プログラム本体はユーザー側に自由に試用・検証を行わせるため、配布・複製・実行の制限はかけられていない。

同様に、Microsoftの現行OSやアプリケーションもネットでの「ライセンス認証」が行われ、Microsoft社側のアカウント管理によって一意性が保たれている。もしネットオークションなどで不正なライセンスキーが販売されていたとしても、Microsoftが不正とみなせばその契約はいつでも解除できる。Microsoft社のプログラムにも、自由な試用・検証のために配布・複製・実行自体には制限がない。3DCGやCAD製品などで著名なAutodesk社も状況は同じであるし、代表的なDTM製品などもオンラインでのアクティベーションを伴う。そのため、業務用プログラム等を著作権法に違反してダウンロードするという著作権違反事例自体が、ほぼ消滅している。

またゲームの著作物についても同様で、モバイルゲームはダウンロード無料・一般的なプレイも無料で、他のプレイヤーより有利な条件を獲得する場合などに金銭が発生するようなシステムが支配的になって久しい。そしてゲームプレイ用のアカウントはGoogle社やApple社などのプラットフォームに紐付いており、何らかの不正行為を行った場合はプラットフォームからも永久的に追放される可能性がある。こうした課金やプラットフォーム支配の問題については、「ガチャ」の問題などと関連して消費者庁などでも議論が重ねられているので、省庁間の横連携をより強化することなどを検討願いたい。

もしネットオークションなどで不正なキーが販売されている場合は、それは不正競争防止法で対応が可能だ。すでに法制度で対応が可能なものに対して新たな規制を作る必要性が不明だ。任天堂社の「マジコン」問題等への対処を鑑みても、プログラムやゲームで現在起きている権利の問題は、著作権ではなく不正競争防止法や商標権で争われるべきであり、ゲームのダウンロードを著作権で規制するというのは、将来を考える方向性として明らかに間違っている。すでに不正競争防止法で対応できないという事例があれば、具体的に御教示いただきたい。

そしてあらゆる著作物に対してのダウンロード違法化の懸念点を抜け漏れなく検討することは不可能だ。柔軟な権利制限規定に関する議論の際は、権利制限が必要とされるものに対して立法事実が重視された。他の著作物を含めてダウンロードを違法化する議論をするのであれば、具体的にどの分野においてどのような問題が生じているのかを具体的に指摘し、ステークホルダーを広く募って議論をしてほしい。「念のため広く網をかけておく」という議論は受け入れられない。

ダウンロード違法化という弊害の大きい対策ではなく、例えばカラオケ法理のCDNへの適用があり得るかといった、現行法でも実現可能でクリエイターの権利保護として実効性を持つ対応の検討を求める。

以上

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