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文化庁「侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメント」に意見を提出しました

MIAUは、2019年10月30日(水)締切の文化庁「侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメント」に意見を提出しました。

内容は以下の通りです。


平成31年10月31日

一般社団法人インターネットユーザー協会

侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメント

1.基本的な考え方

(1)「深刻な海賊版被害への実効的な対策を講じること」と「国民の正当な情報収集等に萎縮を生じさせないこと」という2つの要請を両立させた形で、侵害コンテンツのダウンロード違法化(対象となる著作物を音楽・映像から著作物全般に拡大することをいう。以下同じ。)を行うことについて、どのように考えますか。①~⑤から一つを選択の上、回答欄に記入して下さい。

④反対

2.懸念事項及び要件設定

(1)侵害コンテンツのダウンロード違法化を行うことによる懸念事項として、下記(ⅰ)~(ⅶ)のそれぞれについて懸念される程度を、①~⑤から一つを選択の上、回答欄に記入して下さい。その他、懸念事項があれば(ⅷ)に記入して下さい。

(ⅰ)インターネット上に掲載されたコンテンツは、適法にアップロードされたのか違法にアップロードされたのか判断が難しいものが多いため、ダウンロードを控えることになる。

①とても懸念される

(ⅱ)重要な情報をスクリーンショットで保存しようとする際に、違法画像等(例:SNSのアイコン)が入り込むことが、違法になる。

①とても懸念される

(ⅲ)漫画の1コマのダウンロードや、論文の中に他人の著作物の違法引用がされている場合の当該論文のダウンロードなど、ごく一部の軽微なダウンロードでも違法になる。

①とても懸念される

(ⅳ)原作者の許諾を得ずに創作された二次創作・パロディのダウンロードが、違法になる。

①とても懸念される

(ⅴ)無料で提供されているコンテンツ(例:無料で配布・配信されている雑誌、漫画、ネット記事)が違法にアップロードされている場合に、そのダウンロードが違法になる。

①とても懸念される

(ⅵ)権利者がアップロードを問題視していない(黙認している)場合でも、ダウンロードが違法になる。

①とても懸念される

(ⅶ)権利者により濫用的な権利行使がされる可能性や、刑事罰の規定の運用が不当に拡大される可能性がある。

①とても懸念される

(ⅷ)その他、懸念事項があれば記入して下さい。

(i)について、例えば著作権者から許諾を得ずに行ったゲームのプレイ中の動画(いわゆる実況動画)をスマートフォンのスクリーンショットや動画キャプチャ機能を使って自身の端末に保存した場合はどのような取り扱いになるか。またそのゲームのプレイ自体は無料だが、有料アイテムや追加課金で楽しめるコンテンツがある場合、このゲームは「正規版が有償で」提供されていることになるのか。

(ii)について、なぜ「重要な情報」と選択肢に著作物の価値を限定させる文言を入れたのか。重要でない情報とはなにか。条文案には情報の質によって判断を変えるようなものが見当たらなかったが、このような文言がパブリックコメントの懸念事項の具体的なケースとして上げられていることに懸念を感じる。

(iii)について、「ごく一部の軽微な複製」との文言があるが、複製量の多寡によって判断が変わるようなことはあるのか。

(v)について、当初無料で公開されていた記事が、その創作者や媒体社の都合で非公開となってしまい、その記事を参照・記録したいとき、ウェブ上に残されたアーカイブデータやキャッシュデータしかソースがない場合が考えられる。その時、この記事のデータのダウンロードやスクリーンショット保存は違法となるか。

「業務としてのダウンロード」としてそもそもこれまでも自由利用でなかったとされる利用形態について、同人漫画家やアマチュア芸術家、アマチュア研究者などの場合、業務か私的利用かは極めて曖昧であろう。そのような領域においてダウンロード違法化が行われることは、創作活動や研究活動の裾野を細らせ、文化振興に顕著にマイナスの影響を与える懸念がある。

著作権、あるいはいわゆる「疑似著作権」に基づく振り込め詐欺などの新たな犯罪行為が発生する可能性がある。例えば、ウェブブラウザで画像を表示させ「あなたは以下の画像をダウンロードしました。違法な利用なので使用料金15,000円を期日までに振りこむこと。振り込みがない場合は訴える」と要求するような犯罪の類型である。また振り込みがなされなかったとしても、相談窓口と称した電話番号やメールアドレスに連絡させ、騙されやすい消費者リストとしてまとめられてしまい、新たな詐欺に巻き込まれる可能性もある。現状の振り込め詐欺の被害の深刻さや、マンガ・アニメ・ゲームなどの大きな市場性を鑑みれば、違法ダウンロード詐欺とでも言うべき詐欺行為が新たな反社会的勢力の犯罪の温床になることも大いに予想される。

(2)上記の懸念などを踏まえ、具体的にどのような要件・内容とすることが望ましいと考えますか。下記(ⅰ)及びその回答に応じた(ⅱ)~(ⅵ)の回答欄に記入して下さい。

(ⅰ)侵害コンテンツのダウンロード違法化に関する文化庁当初案(添付1~3参照)について、どのように考えますか。①~⑤から一つを選択の上、回答欄に記入して下さい。

⑤要件にかかわらず、侵害コンテンツのダウンロード違法化自体を行うべきではない

※(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ)(ⅴ)は(ⅰ)で⑤を選んだため、記入の必要なし

(ⅵ)(ⅰ)で⑤を選択した場合、その理由を教えて下さい。

文化庁当初案は違法化の対象が広汎に過ぎると考えるが、加えて我々は2010年に導入され、2012年に刑事罰が加わった、動画・音楽のダウンロード違法化そのものについても、ユーザーの情報利用の自由を萎縮させるものとして反対を続けている。(1)での懸念事項についての質問事項についてもおよそ全ての懸念を列挙できているとは言い難く、どのように違法化対象を絞り込んでも、侵害コンテンツのダウンロード化は「国民の正当な情報収集等に萎縮を生じさせないこと」を実現できないと考える。「深刻な海賊版被害への実効的な対策を講じること」は、何よりもまず、現行法令の範囲で権利者が海賊版提供サイトを迅速にテイクダウンするための方法を行使すること、そして警察・検察が適切に被害届・告訴状を受理し海賊版提供者の捜査を行うことによって行われるべきである。テイクダウンや犯罪捜査に関してボトルネックがあれば、憲法に違反しない範囲で法制度を整備し、その部分を解消・改善していくのが正攻法である。

3.その他

(1)侵害コンテンツのダウンロード違法化に関して、上記のほかに御意見があれば、記入して下さい。

(本節は1[viii]から再掲)著作権、あるいはいわゆる「疑似著作権」に基づく振り込め詐欺などの新たな犯罪行為が発生する可能性がある。例えば、ウェブブラウザで画像を表示させ「あなたは以下の画像をダウンロードしました。違法な利用なので使用料金15,000円を期日までに振りこむこと。振り込みがない場合は訴える」と要求するような犯罪の類型である。また振り込みがなされなかったとしても、相談窓口と称した電話番号やメールアドレスに連絡させ、騙されやすい消費者リストとしてまとめられてしまい、新たな詐欺に巻き込まれる可能性もある。現状の振り込め詐欺の被害の深刻さや、マンガ・アニメ・ゲームなどの大きな市場性を鑑みれば、違法ダウンロード詐欺とでも言うべき詐欺行為が新たな反社会的勢力の犯罪の温床になることも大いに予想される。

意図しないダウンロード行為などに違法性がないことや適切な権利行使であるか疑念のある行為についての毅然とした対応への普及啓発活動は、現在の振り込め詐欺対策などと同等のレベルで広く社会に注意喚起する必要はこれまで以上に喫緊の課題となる。

当会は2007年にスタートしたいわゆる「ダウンロード違法化」に係る議論のスタートにより、ダウンロード違法化によって情報環境における自由が制限されることに危機感を感じ立ち上がった団体である。当時もダウンロード違法化に対するユーザーの反対の声が大きかったが、2010年にダウンロード違法化を含んだ著作権法改正は行われ、2012年には2010年当時はなかった刑事罰が追加された。当会はそれまでに行われたパブリックコメントや知的財産推進計画への意見募集などでダウンロード違法化に関して「ユーザーの情報利用の自由」の観点からの懸念を提出してきたが、そのような懸念点について別途議論もされず、法的な手当もされないまま、ダウンロード違法化の範囲が拡大されようとしていることは大変遺憾だ。

ダウンロード違法化拡大にはこれまでに延べてきたような山積しており、実施すべきではない。そして著作権の拡大がずるずると行われ続けていることにも大変な恐ろしさを感じている。今回の条文案が抑制的な制度となるような考慮が全くなされていないとは言わないが、問題は法改正の議論がなされた当時の「抑制のタガ」が次々と外されていることだ。これまでユーザー目線での情報利用の拡大に関する著作権制度の変化は見送られてきた。それが今回のダウンロード違法化の範囲拡大に関するユーザーの懸念につながり、ダウンロード違法化の範囲拡大によってその懸念はさらに拡大する。ユーザーが行うことのできる著作物の利活用への手当なく、拡大し続ける著作権の拡大という視点からも、今回の「侵害コンテンツのダウンロード違法化」に反対する。

(2)リーチサイト対策に関して御意見があれば、記入して下さい。

リーチサイト規制は約10年前から議論が続き、その規制範囲の大きさは常に懸念対象となってきた。ハイパーリンクは情報環境を支える技術の根幹であり、そのハイパーリンクを貼ることのできる場を一般に向けて提供することはウェブサービスなどの開発・提供に必須のものだ。検索エンジンやサイトの全文検索機能、第三者も可能なタギングの機能などがリーチサイト同様の機能と見做されることが起こり得る今回の対策案には反対する。

ユーザーに書き込みをさせ、あるいは閲覧者がコメントができるようにするようなサイトは、書き込んだ者とサイト運営者、あるいはプラットフォームが異なっていることはままある。その際の権利行使として書き込みの削除ないしサイトそのものの削除に応じないサイトをリーチサイトとして違法化するような案となっているが、その書き込みの性質によっては削除すべきでないものもある。例えばある言論に対して、それとは異なる意見を主張するために根拠となるテレビ番組などの映像にコメントとしてリンクを張り、「こちらの動画を見てください」という行為はリーチサイトとして規制されてはならない。あるいは自分とは異なる主張を削除させるために侵害コンテンツへのリンクを張り、別口でそのサイトをリーチサイトとして告発し、削除させることもできる。第113条第2項第1号の案では、イ号として分類されるサイトにはURLの数の制限はないため、1つのURLでもそのようなことは起こり得るし、米国のDMCAがそのような言論封殺のために用いられている現状から鑑みれば、これは決して大げさな懸念ではない。

(3)その他、海賊版対策全般に関して御意見があれば、記入して下さい。

ユーザーのリテラシーを求めるわりには、現行著作権法及び今回コメントを求められている改正案は明らかに難読文だ。例えば113条2項1号の難解さは、文化庁の説明資料においても異常なほど豊富な注釈がついていることからしても明らかであろう。難解な法文は誤解を招く可能性があり、それは例えば権利制限について、私的領域で違法性が疑問視されるような場合であっても違法になると誤読する可能性や、あるいは30条の2や4に該当する範囲を狭く誤解する可能性などが考えられる。私的使用の例外で違法になるケースを強調するばかりではなく、私的使用の正当性や、著作物に表現された思想又は感情の享受を直接的な目的としない利用の公正性について啓発啓蒙を重ね、著作権法第1条が謳う、著作権制度の正しい理解を促進しなければならない。

また3-(1)で述べたように、著作権保護期間の延長や著作権侵害の非親告罪化、アクセスコントロール回避規制など、著作権は拡大するばかりで、ユーザーの著作物の利用が制限され続けている現状がある。情報環境の変化に合わせて、ユーザーの著作物利用の態様も大きく変化しており、それに合わせた著作物の利用を担保するような制度導入も待ったなしの状況だ。現代の著作権政策に求められるのは、ユーザーが自身で情報をアーカイブ・活用・検証・改善し、ユーザー発信の教育やエンタテインメントなどのコンテンツ制作・発信が自由に行え、現代の言論の自由を担保するようなものだ。著作権の保護と利用のバランスを取り戻すためには米国型フェアユースの3要件をベースにした柔軟な権利制限規定の導入が必須だ。当会は違法コンテンツのダウンロード違法化、そしてリーチサイト規制については反対の立場だが、米国型フェアユースの導入は、それらの懸念点を大きく低減する。活動自粛を防ぎ、流通促進をはかるセーフガードとしてのフェアユース規定の導入が求められる。

そして著作権制度の議論の進め方にも大きな問題があり、その解消が求められている。年々とユーザーの情報利用と密接になりつづける現代においては、著作権政策に関する議論にはユーザーの目が必要だ。しかし知的財産推進本部での議論ではチャタムハウスルースの導入が提案されるなど、その議論を閉じようとしている動きもある。そのような議論において出てきた法案には納得感もないし、正統性も信じられない。ユーザーのインターネット利用に大きな影響を与える規制に関しては、インターネットガバナンスの議論としてマルチステークホルダーによる議論が必要である。傍聴を認めるだけでない、オープンに発言が認められる会議体で議論を進めるべきだ。

以上

Tags:
リーチサイト規制
違法ダウンロード刑事罰化