MIAUは、2019年1月6日(日)締切の「文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会 中間まとめに関する意見募集の実施」に意見を提出しました。
内容は以下の通りです。
平成31年1月6日
一般社団法人インターネットユーザー協会
文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会 中間まとめに関する意見
リーチサイト等を通じた侵害コンテンツへの誘導行為への対応について
リーチサイト規制については2017年6月30日に開催された文化庁文化審議会法制・基本問題小委員会(第2回)で当協会は意見を述べる機会を得た。当協会のリーチサイトに関する議論への意見はその際に発表したもの(https://miau.jp/ja/820)と変わらない。
著作権を侵害する違法アップロード行為は許されるものではなく、取り締まられるべきである。またその違法アップロードを取り締まる法制度はすでに整備されており、効果をあげている。海賊版対策は違法アップロード対策をベースに考えることが原理原則だ。
対して現在議論されているリーチサイト規制について、リンク情報の提供行為は,インターネットによる情報伝達において不可欠な役割を担うものであり,表現行為として憲法第21条第1項により保護される。加えてリンクはhttp(hyper text transfer protocol)というインターネットを支える根幹技術のベースにあるものである。そのような視点から我々はリーチサイト規制に反対の立場をとる。
以下は上記を踏まえた上で本中間まとめへの意見を述べる。
本中間まとめでは「リンク等情報」という言葉が複数箇所で用いられているが、リンクに限定せず、「等情報」をつけて、対象を不明確にしている。「リンク等情報」がいわゆるリンク(HTMLで<a>タグで囲まれており、ユーザーがクリックするとページが遷移するもの)以外を指すことがあるのであれば、それを例示すべきである。もし純粋なリンク行為のみをもって定義するのであれば「等情報」を削除し、同時に「リンク情報」が何を示すのかも明確に例示すべきである。
リーチサイトの定義における「場・手段について」の項では「サイトの開設等の目的や客観的に果たしている機能に着目して、侵害コンテンツへの到達を容易にすることを通じて侵害の助長に寄与する蓋然性の高い場等に限定する」こととしている。つまりサイト開設者の明確な侵害目的を要件としている。しかし「主観について」の項では、リーチサイトと認める際の条件として「侵害コンテンツであることについて故意・過失が認められる場合に限定する」とあり、脚注23においてはプロバイダ責任制限法との関係から「リンク等を掲載せず誰でも自由に掲載できるタイプのリーチサイト」への対抗が不可能となることから、故意だけでなく過失も含むとしている。汎用的な動画サイトや画像アップロードサイトはユーザーによって侵害コンテンツがアップロードされることがあり、客観的に果たしている機能からリーチサイトと判断され得る場合が考えられる。悪質なリーチサイトに限定した規制をするという目的から鑑みれば、リーチサイトの定義をより明確にすべき。「場・手段や主観に関する要件によって特に因果的寄与が特別に強度で悪質なものをくくり出してきているので、パロディ等は問題とならないと考えられるため、対応は必要ない」との意見もあるようだが、この中間報告の書きぶりではくくりだされているようには思えない。また本規制は刑事罰を射程に入れていることから、無辜の開設者が刑に問われないよう、主観要件ではなく一定の手続に従ったNoticeを必要とするような形で要件を立てるのが望ましい。
「いわゆるデッドコピー等への限定を行うべきか否かについて」の項について、デッドコピーへの限定を行わず、漫画や映像の一部を切り取ったもの、タイムストレッチにより長さを変更したものについても本規制の対象とする方針であることが示されている。しかしこれらは漫画評論や映像評論では一般的に行われる手法である。日本においては米国のような表現の自由の担保を主眼においたフェアユース規定や、欧州に存在するパロディ規定が存在しないため、ここで挙げられている事例が著作権侵害とされ、表現の自由を大きく毀損する。差し当たり緊急に対応する必要性の高い悪質な行為類型への対応をするという目的から鑑みれば、まずはデッドコピーに限定するべきである。中間まとめでは「⑤マンガを翻案し,新たなマンガを創作したもの」については議論があったようだが、これが入ると日本の二次創作文化が大きく毀損される。クールジャパンを標榜するわが国に著作権法に絶対に含めてはならない条項である。
法定刑について、インターネット上の著作権侵害に関する制裁として望ましいものとしてサービスの提供停止とあるが、これはいわゆるスリーストライクルールのような開設者のインターネットアクセスを制限するようなものを射程に入れているのか。インターネットへのアクセスは現代では一種の人権である。インターネットアクセス、そしてその場での情報発信を禁じるような、知る権利や表現の自由を制限する罰則はあってはならない。
インターネット情報検索サービスに関する規制については「現時点においては,当事者間における取組みによって本課題の解決を適切に図ることができる可能性は十分にあるもの」とされ、今回は見送られるように理解する。情報検索サービスはGoogleやYahoo!、Bingのような大規模プラットフォームによるものだけでなく、DuckDuckGoやQwantなどのプライバシーにより配慮する目的の新たなものが出現している。また情報検索サービスは今後汎用的なものだけでなく、ある情報に特化したクローリングによるサービスが今後出現することが予想される。あたらしいサービスの出現を促進するためにも参入障壁となるような法制度は見送られるべきである。
ユーザーのインターネット利用に大きな影響を与える規制に関しては、インターネットガバナンスの議論としてマルチステークホルダーによる議論が必要である。国連のInternet Governance Forumにならって、傍聴を認めるだけでない、オープンな発言が認められる会議体で議論を進めるべきだ。
ダウンロード違法化の対象範囲の見直し
私たちはダウンロード違法化の対象範囲の拡大に反対する。ダウンロード違法化の対象範囲の見直しについては2018年11月9日に開催された文化庁文化審議会法制・基本問題小委員会(第4回)で当協会は意見を述べる機会を得た。当協会のリーチサイトに関する議論への意見はその際に発表したもの(https://miau.jp/ja/880)、そしてその後に受けた意見照会(https://miau.jp/ja/897)と変わらない。
以下は上記を踏まえた上で本中間まとめへの意見を述べる。
今回の意見募集について『「ダウンロード違法化の対象範囲の見直し」に関する留意事項 』なる補足文書(以下「留意事項」とする)が付属していることに抗議する。意見募集に当たりダウンロード違法化が海賊版対策に効果があることを既定路線とし、異論を排除することはパブリックコメント制度の意義をないがしろにするものだ。今後このようなことは絶対にあってはならない。
まず本中間まとめは「ダウンロード違法化の対象範囲の見直し」とあるが、具体的にどのような著作物へ対象範囲を拡大するのかが記されていない。報道では「静止画ダウンロード違法化」などと呼ばれ、わたしたちにも静止画を対象とした意見が求められた。またその際にはコンピュータプログラムについて含めることについても合わせて意見が求められた。静止画についてはまとめ内で言及があるが、コンピュータプログラムについて目立った言及はないようだ。つまり今回の意見募集はダウンロード違法化の対象範囲の見直し一般についての意見募集であり、ひとつの事例として審議会で取り上げられた静止画に関する議論が紹介されているにすぎない。今後の議論では現在の情報環境の態様に鑑み、範囲を限定し、その上で個別の事案について具体的な意見照会を再度広く行うべきである。その際は従来の審議会やパブリックコメントではなく、タウンミーティングのようなマルチステークホルダーかつオープンマイク形式での広い議論が求められる。
検討結果として「現時点で想定され得る具体的な限定方法については、いずれも課題があり、悪影響も懸念される」とある。ここでいう悪影響は権利者や法執行サイドからの悪影響であり、ユーザーや研究者、また現場のクリエイターたちからの悪影響は反映されていない。わたしたちの意見書だけでなく、すでにインターネット上では対象範囲の拡大についてさまざまに議論が行われていることを指摘しておく。
キャンペーン · 静止画ダウンロードの違法化を行わないで下さい(Change.org)
包括的ダウンロード刑事罰化がはじまろうとしている(YamadaShoji.net))
静止画や小説等ダウンロードの違法化/処罰化に強く反対する(弁護士山口貴士大いに語る)
ダウンロード違法化の審議について一言言っておく(漢(オトコ)のコンピュータ道)
文化庁中間報告から読む静止画・テキストのDL違法化の問題点と構成要件(Togetter)
「ダウンロード違法化の対象範囲について」において委員より「(イ)音楽・映像以外の著作物の特性等を踏まえ,録音・録画とは別の新たな要件を追加的に設定することにより慎重に対象を限定すべき」ということで出された意見に私たちは賛同する。意見にあるように、静止画については、音楽・映像と質的に相違するものが含まれるため、対象範囲の拡大は萎縮効果が大きい。ウェブクリッピングなど広く一般に行われている行為に影響が及ぶことを前提として認識する必要がある。ダウンロード違法化はメッセージ効果としてしか機能しておらず、広く網をかけることでメッセージ効果・抑止効果が弱まり、国民の遵法意識を下げる。現に留意事項文書にあるように音楽・映像の違法ダウンロード刑事罰化による摘発事例はないことがこの証左だ。しかしこの中間まとめでは上記の慎重意見を取り入れず、「更なるユーザー保護のための措置を行う必要性・正当性自体が認められない」との意見まで示されている。しかし右クリック保存やスクリーンショットなど現在の情報機器の利用態様から多くのユーザーが日常的に行っている行為を違法化しようとしているわけであるから、よりユーザーを保護する視点を議論すべきだ。
そして一番のユーザーの保護は侵害コンテンツの削除だ。そして一番の問題は金銭的な利益のために明確な悪意のもとに侵害コンテンツをアップロードしているユーザーだ。その点の議論がすっぽりと抜けていることを指摘しておきたい。
留意事項によれば、今回の複製の範囲には「右クリックによる保存のほか、スクリーンショット等も対象に含まれます」とある。そのうえでそれが著作権を侵害する自動公衆を受信して行うデジタル方式の複製であることの立証は「権利者側が主張・立証することとなります」とある。これをそのまま解釈すれば権利者が立証のためにユーザーのパソコンやスマートフォンを覗くことができるように読める。これは通信の秘密やプライバシーを侵害するし、技術的にも困難である。そのような実際に適用できない法制度を立法する必要性はまったくない。
本まとめでは私たちが意見発表や意見照会で問われた萎縮効果についての問いに対して、具体的な事例が挙げられなかったとまとめられているがそうではない。インターネットで映像や音楽を視聴することに萎縮効果は生じたが、SpotifyやNetflixなどのサブスクリプションサービス、またTVerのような見逃し視聴サービスの登場により、ユーザーが合法的なコンテンツ利用が可能になったことでその萎縮が大幅に緩和された。ビジネスモデルを通じて海賊版利用を不要とした権利者の対応は大変評価できる。そして漫画や書籍も同様にビジネスモデルで解決が可能であるはずだ。
アクセスコントロール等に関する保護の強化
当会は従来よりアクセスコントロール回避規制に反対している。当会が2011年に発表した「アクセスコントロール回避規制導入についての緊急声明」(https://miau.jp/ja/204)に記載した懸念は未だに解決されていない。
その上で本中間まとめへの意見を述べる。
上記の声明にある通りアクセスコントロールの強化はアクセスコントロール技術の正当性が検証できなくなる恐れがある。不正利用に対抗するためにソフトウェアベンダーはさまざなま工夫をこらしたアクティベーション形式を考案しているが、過去にアクセスコントロールのために使用された「Rootkit」や「コピーコントロールCD」のような技術は、ユーザーのコンピュータやCDプレーヤーを誤作動させ、セキュリティホールやハードウェアの故障の原因となった。このような問題はユーザーの手によって検証され、インターネットを通じてその問題が知らしめられたという経緯がある。ユーザーの権利・利益を侵害し、その追及を妨げるような規制は、ユーザーの正当な利用を害することとなり、決して認められるものではない。
さらに言えば、違法ダウンロード刑事罰化の議論にコンピュータプログラムを含める議論がなされ、私たちは最近のソフトウェアはアクティベーションがシリアルコード認証からオンライン認証に移りつつあるため、ソフトウェアを違法ダウンロードの対象に含めることに反対する意見を述べた。アクセスコントロール回避規制にライセンス認証の回避を含めるのであれば、違法ダウンロードにソフトウェアを含める必要性はなくなる。
以上