2020.05.25
著作権法改正案への緊急声明
インターネット上での「海賊版サイト」への対策を強化する目的で違法なダウンロードの対象範囲を拡大すること(以下違法ダウンロード対象範囲拡大)、リーチサイトに対する規制(以下リーチサイト規制)、アクセスコントロール回避規制の強化などが盛り込まれた著作権法の改正案が2月10日に閣議決定され、5月20日に開催される衆議院 文部科学委員会で審議がスタートしました。
私たちはこれまでに違法ダウンロード対象範囲拡大やリーチサイト規制への問題を指摘し、パブリックコメントや声明、そして審議会での意見聴取の機会などを通じて発表してまいりました。
文化庁文化審議会法制・基本問題小委員会で静止画ダウンロード規制に関して意見を述べました
https://miau.jp/ja/880
文化庁 文化審議会 著作権分科会 法制・基本問題小委員会 中間まとめに関する意見募集に意見を提出しました
https://miau.jp/ja/902
文化庁「侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメント」に意見を提出しました
https://miau.jp/ja/937
文化庁が発表した閣議決定の内容を見れば、軽微な複製を対象から除外するなどの手当が一定程度整備されたことは評価しますが、しかしインターネットの活用が一般化した我が国の社会において、今回の改正は国民の情報の活用に負担を追加する内容であることは間違いありません。
合わせて今回の改正案には「国民による正当な情報収集等への萎縮を防止する」ためのバスケットクローズ規定(安全弁)として「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合」を違法ダウンロード対象範囲拡大の対象として除くことが条文案に取り込まれています。しかしこれはユーザーに著作権者の利益を不当に害しないことへの立証を求めるもので、専門家ではない一般消費者には非常に高いハードルであることは明らかです。これでは、著作権法の趣旨である、保護と利用の促進(著作権法第一条)という観点からみて、利用促進の視点が不十分であり、いまだにバランスを欠いた案と言わざるを得ません。
私たちは2010年1月の著作権法改正時に導入された音楽や映像に限定されたいわゆる「ダウンロード違法化」への議論の頃から、これに反対し続けてきました。導入から10年が経過し、その中で刑事罰化が行われ、さらに今回対象範囲の拡大が行われようとしています。またACTAやTPPに批准する際に著作権保護期間の延長、著作権侵害の非親告罪化、そしてアクセスコントロール回避規制など、著作権は保護強化の方向に拡大し続けています。
対して技術を用いた消費者の著作物の利活用を促進する手当はその間ありませんでした。2018年5月改正では「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定」が取り入れられましたが、これはどれも産業の変容に対応するものであって、言論の自由を担保し、教育やエンタテインメント、ユーザーによる技術検証・改善(Freedom of Tinker:いじる自由)に資するものではありませんでした。
今回の著作権法の改正案、そしてこれまでの我が国の著作権法制度をめぐる経過は、国民の情報や著作物の利活用を制限し、さらには萎縮させる内容が一方的に導入され続けてきました。そして違法ダウンロード対象範囲拡大が一度国民の声で見送られたこと、そして今回の改正案原案に対するパブリックコメントに寄せられた意見の数からも、今回の著作権法の改正案には国民から懸念の声が多く寄せられています。
著作権法は、権利を守りつつ利用を促進することで文化を発展させるものであります。国民の啓蒙という実効性のあやふやな保護強化が改正の主眼になり、かたや国民の知る権利や表現の自由の実現手段であるインターネット上の情報収集・発表等への萎縮が懸念される現状は、法改正として本末転倒ではないでしょうか。国民の権利や自由を担保するように、米国型フェアユースの4要件を範とした、柔軟かつ包括的な権利制限規定を同時に実施し、権利の保護と利用のバランスを取るべきです。
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